短編 | ナノ
思春期♂♂♀ [1/2]














「お、お前!いっつもここの道通るよな、うん!」

『え……あ、隣のクラスのデイダラ…君?』

「ッ!!お、オイラのこと知ってたのか!?」

『うん、そりゃあ毎日見かけてるからね。美術室でいつも粘土いじってるでしょ?』






それは自身に訪れた受験シーズンの年、三年間通い慣れた通学路。

思い切って声をかければ、向こうもはじめからオイラのことを知っていたようで。






『サソリくん、今日は一緒じゃないんだ……。』

「……へ……、」

『え、あぁ何でもない何でもない!チャイム鳴りそうだから先行くね!』






けどそう言って、一人慌ただしく校門をくぐっていく後ろ姿を見送りながら。



……オイラはこの先訪れるであろう、不吉な三角関係を早くも呪っていた。
























思春期♂♂♀












---------------






「おいデイダラ、部室行くぞ。」






びくりっ、

背後から被さる影に気付き、震えたオイラは恐る恐る首だけを後方に向ける。






「だ、旦那……。」

「早くしろ。入試の実技試験に必要な課題仕上げんだろ、間に合わなくなるぞ。」

「わ、わかってるって、うん……!」






赤い髪の美術部元部長に急かされ、オイラはノートその他もろもろを無理矢理机にねじり込む。






高校三学年のオイラたちは、互いが同様の美大を受けるべく。

部活を引退した今でも、変わらず美術室に通い詰める日々を過ごしていた。






「サソリ先輩〜!いますかサソリ先輩〜!」

「あ、いたよホラ!こっちこっち!」

「先輩、彼女さんと別れたって本当ですか!?」






と、ちょうど廊下に出たところで、後輩の女子複数名がオイラたちの行く手を塞いだ。






「じゃあ今サソリ先輩は完全にフリーなんですよね!?」

「お願いします!卒業までの数週間だけでいいんです!憧れの先輩に、わたしたち少しでいいから構ってもらいたくて……!」






最後の頼みの綱とばかりに、その胸中の主に哀願する女子の姿。

それは何度となく見せつけられてきた、うんざりする恒例行事でしかなかったけど。






このときのオイラは、一縷の望みを託しながら、それを後押しせずにはいられなかった。






「い、いいんじゃないか旦那。」

「は……?」

「あ、いや!旦那だってここ最近は進路のことばっか考えて煮詰まってただろ!?た、たまには息抜きも必要だしな!うん…!オイラはアリだと思うぞ、そういうのも。」






少しギクシャクしながらその関係を勧める不自然なオイラに、旦那はジ……と視線ばかりを向けてくる。

オイラが一向に目を合わせないでいれば、旦那は面倒くさそうに頭をかき。



再び手を下ろした頃には、それを伝えていた。






「前の彼女とは、受験に集中したいってんで別れたんだ。別にお前らと遊ぶためじゃねぇ。」

「!そ、そうですよね、やっぱり……。」

「さすがにそういうことなら仕方ないよね。サソリ先輩の迷惑には変えられませんし……変なこと言ってすみませんでした!受験頑張ってください、応援してます!」

「おう。」






そう女子からの声援に応えて、旦那は清々しく彼女たちのわきを通り美術室へと向かう。

オイラはあからさまに芽生えた落胆と共に、その後ろをついて回ることしかできなかった。
























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はじめて見たときから、好きになってた。

ずっと見てたら、もっともっと好きになってた。






「nameおはよー!」

『ん…あ、由利ちゃんおはよう。』






登校時間のほんの数分、同じ時間に同じ道なりを歩くキミ。

そんな毎日の繰り返しすらどれも新鮮で、見てて飽きることなんてなかったんだ。






『フフふーん、ふふ〜んふふーン……、』






周りに気づかれないよう、覚えたての楽譜を鼻歌に出してたり。






『How are you today?Is your cold better…う"っ!?』






テスト前には教科書に釘付けになりながら、いつもよりゆっくり目に歩いてたり。

それでも電柱に頭打ってうずくまったときなんか、いっそのこと話しかけてお互いのキッカケにしちまえば良かったけど。






(いやでも、いきなり知らない男子から声かけられるのも変に思われるよな、うん……。)






なんて余計なことを考えて、いっつもいっつもそのチャンスを後回しにしていられたんだ……そう、今までは。






―――けどこれからは違う。

オイラたちにはもうすぐ、“卒業”という最大の終わりが訪れる。






「デイダラ……おいデイダラ。」

「!?え、は……」

「いつまで居残るつもりだテメーは。とっくに下校時間過ぎてんだろうが。」






手元と思考に集中していたオイラは、呼ばれてようやく窓の外を見やった。

気づけば夕焼け空を通り越し、辺りはもう暗闇一色と化している。





「わ、わり……けどあと少し残ってっから、旦那は先帰ってていいぞ、うん。先行にはオイラから言っておくし……部室の鍵だけくれるか?うん。」

「…………。」






またしてもオイラが視界に移すことをしないので、無言でいられた場合は聴覚に頼るしかない。

すると数歩窓際に歩み寄る気配と、カーテンを横に流す音が聞こえた。






「あー悪いな旦那、カーテンやってもらって。」

「ん、あぁ。」






そうやって些細な人工灯が目立ち始めた視界をカーテンで閉ざし終えた旦那は、鍵をくるくる指先で弄んでいるのか。

鉄の音をチャラチャラさせて、オイラの後方から近づく。これも気配。






……え?何でさっきからオイラがこんな警戒心張ってるのかって?それは、






―――スッ、

「ッ……!!」






びっくりした。いきなり顔の真横から、一本腕が通される。

伸ばされた腕の先では、手のひらによって机上に押さえつけられた鍵が、身動き取れなくなっていた。






「だ……旦那?おい、」

「…………。」





ここにしか居ない男の名を呼んではみるが、奴は答えない代わりに背後でもぞりと蠢いた。






―――その蠢いた先で……首筋なのか髪の毛か。

オイラのその付近の空気を吸い上げて、吸い上げた分だけ言葉を吐く。






「テメーはいつも女みたいなニオイさせやがるな……。」

「!??」






ガタタンッ、と咄嗟にオイラは長椅子長机の端に逃げ込んだ。

一方の旦那はその身を起こし。依然椅子に腰かけたまま動揺したまんまのオイラを見下ろしている。






「や……やめろって旦那!!オイラ男だぞ、うん!?」

「んなもん見りゃ分かる。」

「じゃ何でだよ!?同性に向ける目じゃないだろそれ!?オイラ前から何回か断ってたよな!?そりゃあ旦那には部活で世話になったし、今後だって友達付き合い継続したいと思ってる。けどオイラは別にこういうの期待してたわけじゃないし……、」

「あぁ聞いてる。けどテメーがどう思おうが関係ねぇな。」






そう言った旦那は座るオイラと目線を合わせるよう、どかりと長椅子を跨いで尻を据える。






「オレがお前を好くのに、お前の下らねぇ戯れ言なんざ必要ねぇんだよデイダラ。」

「っ……はあ…!?」






動揺の声しか出てこないオイラ相手に、目の前の男は躊躇いもなく我を通さんと手を伸ばす。

それをかわしたオイラが咄嗟に鍵を掴み、急いで出入口に駆け込む、が。






ガタガタ、

(やっぱり……鍵、閉められてる…!!)






慌てて先ほど引っ付かんだ鍵を鍵穴に差し入れるが、ここ美術室の勝手付けは恐ろしく悪い。

そうやって扉の前でもたつくタイムロスは、旦那が追い付くのには充分すぎた。






「なぁ、デイダラ……。」






何を求めているのか、何を期待しているのか。

後ろから迫った旦那の、その腕は、オイラの腰にまとわり付き。



オイラの両手がせわしないのをいいことに、ベルトをはずしにかかっている。






―「オレがお前を好くのに、お前の下らねぇ戯れ言なんざ必要ねぇんだよデイダラ。」―






「っ……違ぇよ旦那……好きだから手が早いって理屈、おかしいだろ…!?」






いま目の前の男を支配しているものは、一方的な“自己欲”で。

そんな奴の自己欲を満たさんがための行動に、相手方であるオイラの意思は関係ないなんて。






「そんな一方通行で、まかり通るはずがないだろ……!?」






好きっていうやつは、もっと……






―『あ、隣のクラスのデイダラ…君?』―






そう、もっと……!!






するとオイラの耳にだけ聞こえた、廊下側から響いたドサッという音。

ハッとしたオイラが扉の子窓越しに見たのは、突っ立ったまんまこちらに顔を向けている虚ろな少女。オイラの頭を支配したのは二つ。






―――あいつを好きでいるキミに、見られた。






「おいデイダラ……大人しく喰わせろ。」






キミのオイラに向ける視線が、変わった。


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