短編 | ナノ
ヌケガラ男女 [1/2]


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※諸事情により、サソリは傀儡ではありません。ご了承ください。
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カラダは、どこへでもイけ。

だがそのココロは、オレのものだ。
























ヌケガラ男女












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久々に立ち寄ってみれば、昔と変わらぬ安アパートの角部屋。

昼間のオレの訪問でようやく起き出した女、nameは、その目を細めて顔をしかめる。






「相変わらず不規則な生活だなテメーは。まだ続けてたのかよ、その仕事。」

『あんたこそ、まだ続けてたの?S級犯罪者。』

「馬鹿言え。犯罪者なんつう肩書きが、早々外れるわけねぇだろ。」

『そりゃあ確かに。』

「……おい、」






家に招き入れようとしたnameを遮り近寄れば。

オレは奴の頭部を、横からすくように触れた。






パシンッ、

だが途端に手を払われ、降りかかる抗議の声。






『何、勝手に触んないで。』

「……髪、はねてんぞ。」

『あぁ、昨日髪乾かさないで寝ちゃったから。わざわざご報告ありがとう、でもだからって触んないで。』

「んな警戒すんなよ、捕って食うわけじゃねぇんだから。」

『ただの反射よ。誰もあんたのこと異性としてなんか見てないから。』






そう言えば、奴は一人洗面所へと向かう。

オレが後からついていけば、男の前でなりふり構わず化粧をし始めた。






特に反論するでもなく、オレは腕を組み部屋の壁に肩を預けながら、その光景をただ見守る。






「ここも見ねぇうちに随分なボロアパートになったな。いつまで経ってもみすぼらしいテメーと一緒で。」

『あんたの毒舌も変わりばえ無いようで何より。あと余計なお世話。』

「もうそれなりに貯まってんだろ?いい加減、この陰気臭ぇ場所ともおさらばしたらどうだ。」

『アタシはこの場所が好きなの。静かだし、居心地いいし、病院だって近い。ごみ捨て場なんか目の前にあるし、買い物に行くのもすごく楽。』

「職場は、遠いだろ。」






オレが唯一にして最大の弱点を挙げれば。

先ほどのnameとは似ても似つかない、濃いめの化粧がほどこされた顔がこちらを向いた。
























―――職場は、徒歩で二時間弱の離れた歓楽街の一角。

こいつの仕事は、売春だ。






「もう何年も続けてんだろが。下手したら何十年になるかもなぁ。」

『いいの。あそこ路地裏で物騒だし……アタシだって、毎日のように酒臭い男の相手ばっかりしてるんだもの。少しでもあそこから離れて、つかの間の非日常を味わいたいじゃない。』

「なら辞めちまえよ。」






―――ピタリ、

一見正論すぎる指摘だが、その目はジッとオレを映し見た。



先ほどオレが触れたときに見せた嫌悪感すらない……その目は酷く無感動だった。






『……何を、今さら。』

「まぁそうだろうな、今となっちゃあテメーも数ある男どもを梯子した汚ねぇ体だ。けど一般人として平凡に生きてたテメーが何だって、わざわざんな仕事を選んでやり始めたのか見当がつかねぇ。」






依然として壁に体を預けたまま、オレが視線だけで相手を探る。

途端に逃げるように視線を外すname。






「オレが15で里抜けした後に……何かあったのか?」

『……ねぇ、サソリ…………
























……別に、何もないわよ。あんたには関係のない話だし。』






一度探りを入れてこう切り返されてしまえば、何度言ったところでこいつには無駄。

オレは早々に話を切り上げるしかねぇ。それが定石だ。






「……そうかよ、まぁせいぜい頑張んな。そのうち中出しされて廃業に千両。」

『そんな初歩的なヘマしないから。じゃ、』

「まだ真っ昼間じゃねぇか、時間あんだろ?」

『本業以外にも店の準備とか、やることは沢山あるの。帰ってきて早々悪いけど、出てって。』






ついにはオレを閉め出し、鍵をかけるname。

化粧はもはや別人級、だが服だけは相変わらずのみすぼらしさ。






―『……ねぇ、サソリ…………』―






「……言いかけといて“別に”はねぇだろ。」

『…何の話?』






すましたようにそう言えば、既に歩き出し方角の定まっているその体。



そうして奴は、今日も歓楽街へと赴いた。
























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「テクニックは上手いけど、なんつーか…ムードに欠けるんだよなぁ。」






それがアタシに対する職場での印象だった。






「プライドが高いんだろうなぁ、まぁこっちは儲かればいいんで何も言わないけどよ。」

「とっつきにくいんだよなぁ、あの女一生独り身だろ。」

「まぁでも、客に思い入れしすぎて駆け落ちとかされても面倒だし?あれぐらいヤるのに抵抗とか偏見ない方がいいかもな。あいつのカラダは商売向きだよ。」






もちろん悔しい。

自分のこのカラダは、性の掃き溜めにしかなれないなんて。






……商売向き、だなんて。

死んだ父さんと母さんが聞いたら泣いて悲しむだろう。






「さぁnameちゃん、今日も頼むよ……。」






―――でもアタシは、この仕事を辞めることができない。






「っ…!いつ来てもたまんねぇなnameちゃんは……!」






―「職場は、遠いだろ。」―






『っは、あっ…』






―「辞めちまえよ。」―






―――安心してサソリ。






―「オレが15で里抜けした後に……何かあったのか?」―






誰もあんたを責めやしない。






『あっあぁ…!』






結局はアタシの問題で、アタシがこうすると決めたんだから。



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