Bad Romance [2/2]
だがここで今、冷静に考えとみたとき……今のこの場景を、周りは一体何と呼ぶだろう。
―――おそらく今、アタシは繋がっているのだ。この男と。
『い、ぁ、んんっ…!』
それはとても卑猥な光景に思えた。
奴がその体を突き上げるようにして、何度もアタシに迫る動きも。
奴から突き上げられる度に、漏れる互いの喘ぎ声も。
「……っあぁ、は……」
まるで奴に、下から性器を突っ込まれているような、そんな身の毛もよだつ感覚が走る。
しかも今、それを自ら離すまいと、アタシは奴の舌を積極的に咥えているのだ。
アタシはもう堪らなくなり、咄嗟に口を離していた。
『ぷはっ!はぁ、はぁ、あ……!』
ズルリと抜け出た奴の舌に、アタシの糸が伝っていく。
その舌にはやはり、血の一滴も流れ出てはいなかった……が。
その切り口からはアタシの知らない、別の液体がにじみ出ていた。
『……っ…どう?少しは、懲りた……?』
「……あぁ…、」
依然呼吸の整わないアタシに対し、奴はその指を己の口元へと伸ばす。
そうして口の端を伝った液体を確かめるように触れれば……アタシの顔を見て、ニヤリと笑った。
「今のカンジは、なかなか良かった。」
『……!!?』
奴は再び高揚となり、その手をアタシの顔へと伸ばす。
反してアタシは絶望していた。
『何で……何、でっ……!?』
先程なすり付けていた額が、今度はコツンとアタシにあてがわれる。
だがアタシは依然、その脳内思考を理解することはできなかった。
「いいな、その顔………」
『っ……アタシはあんたなんか、あんたなんか……!!』
「愛してみろよ、それだけオレを憎めるのなら。」
『っ…!!何であんたの理(ことわり)を、平気でアタシに押し付けようとするのよ…!??』
奴の考えがまったくもって理解できない。理解できないことが、恐ろしくもあった。
だからアタシは尚更逃避するため、奴とは正反対のことばかりを思考する。
何をすれば、この男はアタシを解放するのだろうと……。
―「オレだけは何一つ否定することなく愛してやれる。」―
もし奴の言うように、アタシの持ち得るすべての感情が通用しないのなら……いや。
―――それでもアタシは、奴が唯一嫌がる感情を知っている。
『あんたとはずっと“友達”でいたいと思ってた!!それの何が嫌だって言うのよ!!?』
「…………………、」
案の定、奴の目に浮かぶ高揚感がピタリと消えていた。
そうして額をぶつけたまま、近距離から蔑みの目線で、今のアタシを見下している。
……そうだ、思い出したのだ。奴はアタシとの友情を嫌う。
アタシがこれを覆さない限り、奴はアタシを支配することは出来ないのだ。
「……つくづく目に余る女だな、テメーは。」
『……っ…!?』
「だったらオレが、教えてやる。」
すると奴は突然、己の舌を自ら噛み切った。
先ほどの液体がドロリと溢れ出て、ボトボト床を汚している。
奴は口からそれをすくい取ると、その液体をアタシの唇に塗りたくり、耳元でそれを囁いた。
「世の中にはな……もっとアブない恋愛があるってことを―――……
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ピピピピ、ピピピピ、ピッ……
アラームを止めれば、無音になる。
オレはムクリと体を起こし、頭を抱えた。
「……あぁ、酷い夢だ。腰にクる……。」
そうしてふと隣を見れば……同棲中の恋人の、nameの寝顔が目に入る。
―――オレには前世の記憶がある。
そこで奴を、nameの人生を滅茶苦茶にしたんだ。
(けどまぁ、人生ってのは不思議なもんだ……。)
オレは現世でこうして、nameの奴を手に入れた。
オレたちはお互いに好き合ってるし、こうして同棲だってしてるわけで。
だが一見、何不自由なく暮らしてるように見えて……オレの中には、ポッカリと抜け落ちた穴があった。
―『黙れキチガイ!!あんたは殺す……!!』―
―『あんたがこんな奴だとは思わなかった……!!もっと早くに気付けていたら、アタシは、』―
―――そう。昔はあれだけ憎まれていたのに。
今は、その醜さだけが手に入らない。
「けどそんなことしたら、またお前を失う羽目になるだろう……?」
そうしてオレは、静かに寝息をたてるnameの頬に触れ。
スゥ…っとなぞれば、いつかのように輪郭を軽くつまんだ。
……オレが今でもお前の醜い感情を暴きたいかって?
「……そいつは本当だ、name…。」
お前といつか、してみたい。
至高最高の、恋愛を。
2014/12/20
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参考資料:
『Bad Romance』/Lady Gaga
(歌詞和訳は
こちら)
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