31/2.
自分からフッておいて、なんて情けない。
ー『ありがとうデイダラ……でももう、大丈夫だから。』ー
でもそんな言葉のやり取りではなく、サイくんとの体の行為でそれを決定づけられた今。
アタシは本当にもうデイダラとは結婚できないんだと……その事実を、まざまざと突き付けられたのだ。
「上がった?遅かったけど、大丈夫?」
『……うん……。』
「それじゃあ浴衣貸して。ここでそのまま着付けするから。」
『お、お願いします……。』
すっかり遅くなってしまったのに、サイくんはずっと扉の向こうで待っててくれたようだ。
そうして断ってから脱衣所に入ってくると、アタシから無造作なそれを受け取り広げてみせる。
「少しシワになっちゃったけど、これ着て帰るしかないよね。そういえば親御さん心配してない?」
『だ、大丈夫……ママ夜のお仕事だったから。でもそろそろお家に帰ってくるかも……。』
「そうなんだ、じゃあ早く着替えなきゃね。それ脱いでもらえる?」
そう言って促されたのは、体を拭くのとは別に渡されていた大きめのタオル。
アタシはそれを肩からまとった状態で立ち尽くしていたのだが、そりゃあモジモジとしては躊躇われてしまう。
「……何?恥ずかしいの?」
『うー…あー……』
「じゃあ自分で羽織るとこまでやってみる?」
そんな彼の心遣いに、アタシはそそくさと元の浴衣を受け取ると。
サイくんに極力見られないように背を向けて、ぱぱぱっと脱いでは急いで浴衣に袖を通した……って、あれ……?
「ぷっ……あはは、nameちゃんそこ袖通すとこじゃないよ?」
『へ……?は、』
「もう一回最初からやってみよっか。」
浴衣の脇についてる穴みたいなとこから、ヘンチクリンに腕を通すアタシを見かねたサイくんが。
アタシの元へと歩み寄り、結局彼の手によって脱がされる羽目に。
下着姿でサイくんの正面に立たされれば、アタシはたまらずさっきのタオルを拾い上げては前だけ隠した。
「ふふっ……nameちゃん可愛い。」
『っ、…あ……』
「昨日の大胆なnameちゃんも可愛かったけど、こうして恥じらう姿も可愛いね。」
可愛い可愛いを連呼するサイくん。
以前はそう言われただけでドキドキしたのに、今は恥ずかしさだけでカァッと顔が熱くなるばかり。
『は……早くやって……?』
「あぁ、ごめんね。nameちゃんがあんまりにも可愛いから、つい。でも手広げてくれないと袖通せないよ?」
そう言われてしまえば確かに。
それでも隠すことをやめられないアタシは、まず右手だけ真横に伸ばして、左手で前を隠し、視線を右下に。
サイくんが袖を通してくれたのを見計らい、次は右手に持ち替えて、左手を伸ばし、視線は左下に。
「……nameちゃん。いつまでもそんなもの握ってたら、着せられないよ。」
『っ……!!!』
反らしていた顔のおかげで、右の耳に触れた彼の声にビクリとする。
そうして諭されるまま、アタシはギュッと目をつむって。
ようやく震える手元から、パサリとタオルを下に落とした。
「…………。」
『っ………!』
「…………。」
『………??』
何もアクションがないことを不思議に思い、アタシが横を向いたまま恐る恐る目を開けると。
ーーーすかさずサイくんの手がアタシの右頬に滑り込む。
そうしてアタシを正面に向かせれば、その口を半ば強引に重ねてきた。
『んう!んん……っ!!』
アタシが身動きしようにも、体をピタリとつけたサイくんがそれを許さず。
通した浴衣の脇から、アタシの二の腕を這うように掴んでくる。
「……ごめん、やっぱり駄目みたい。」
『!!んっ……ぱあ、』
「可愛いすぎるよnameちゃんっ……このまま昨日みたいなこと、してもいい……?」
そう言って確認してくるサイくんだったけど、もはや返事を待たずにどんどん先へと急ごうとする。
アタシの背中のホックを外し、浮いたそこから手を忍ばせてくる。
ーーーイヤ、ダメ……
『やめてっ……サイくん……!』
アタシ、どうしたって……
『っ……デイダラが、いるから……!!』
ズキズキする。涙が出る。
アタシの胸がまた、幼馴染みのことを思っては悲鳴を上げている。
するとようやく静止したサイくんが、アタシの首に沈めていたその顔を起こしあげると………
「……こんなときでもその名前?」
『っ!!あ…んっ……!』
「昨日のnameちゃんはすごく可愛かったのになぁ、あの幼馴染みのことなんか考えられなくなるくらい……だったらもう、そうするしかないよね……?」
尚更その気持ちに拍車をかけてしまったのだろうか。
アタシの胸の突起を摘んだその手が、背中に回ればなぞるように下へと降りてくる。
「ねぇnameちゃん……君はもう僕のものなんだよ?だから軽々しく他の奴の名前なんか呼んじゃ駄目だし、会って話すのも許されないんだよ?」
『!!え……』
「だってnameちゃんは僕が好きなんでしょ?好き同士ってそういうものでしょ?もしそうじゃないって言うなら……nameちゃんの僕を好きって気持ちは、僕がnameちゃんを想う気持ちには全然届かないってことだよ。」
また昨日のように持論を諭すサイくんのその目を見ると。
昨日の夜も感じた、猟奇的な目……アタシの理解の範疇を超えた目をしている。
……っどうして……?どうしてもう、二度と会っちゃ駄目みたいな言い方するの……??
「それじゃあ駄目だよね……もっと僕のこと好きになってもらわないと。」
『っ……!サイくん、』
「僕の好きを追い越すくらいの気持ちでいてくれないと、こっちが不安になるよ……ねぇnameちゃん……?」
『っ……そんなのおかしいよ…!サイくんがアタシだけと関わって、アタシがサイくんだけとお喋りするなんて……!アタシはもっとお喋りしたい!デイダラだって、他のお友達とだって……!!そんなのサイくんが決められることじゃないよ!!』
「……だってそうでもしないと、また僕の前から居なくなっちゃうかもしれないから。」
ようやく声を張り上げたアタシだったけど、その言葉にすぐハッとさせられる。
サイくんは少しだけ眉を寄せて……このときばかりは、アタシから視線を反らしていた。
「僕ね……もう待つのは懲りたみたい。もうあの日みたいに、nameちゃんに置いてかれてドン底になるのは二度と、ご免だから。」
『……サイ、くん……』
既にサイくんのその目は悲しそうな色を主張していて、アタシは何も言えなくなる。
そりゃあはじめは勝手だと思った、そんな束縛する権利なんかないって。
ーーーでも一番勝手なのは、アタシだ。
ー『ちゅー、しちゃったんだよぉ……!ふぇえん…っ!』ー
サイくんにキスされたときには、それを受け入れられずデイダラの胸に飛び込んで。
ー「このクソヤローが!!nameに何してんだ殺すぞ!!!」ー
デイダラを怖がったときには、慌ててサイくんにすがり付く。
ー『ごめん、サイくん……アタシ行かなきゃ。』ー
かと思えば、サイくんがアタシを好きなこと知っておいて、平然と彼を置いてけぼりにしたり。
ー「オイラ本当にお前が……今でもお前が……」ー
そうして今はデイダラのことフッておいて、彼にいつまでも執着する。
そうやって、どっちつかずな態度をとったばっかりに……その両方を傷つけた。
こんなに寂しいサイくんを作り上げてしまったのも、アタシなんだ。
「……だからいいよね?nameちゃん。」
『…………。』
それを思ってしまったら、どうしたってアタシが拒めるわけもなく。
アタシの掴む手がダラリと垂れ下がるのを見届けると、彼はアタシの浴衣をパサリと床に落とした。
そうしてまだ湿気のこもる浴室の扉を開けて中に入ると、その手でシャワーの蛇口を捻り。
流れ出すシャワーを背にしながらアタシを浴室の壁に押し付けたサイくんが、再びキツいくらいにその唇を押し当てる。
「大丈夫……いっぱい啼いていいから……」
『ッ……!!はぁ…んっ……あぁん…!!』
そうしてアタシは彼に言われるまま、泣きながら性を喘いだ。
ゴメンナサイの代わりに、後日談、シン兄さんとサイの会話
「……ねぇサイ。先月の水道代が大変なことになってるんだけど、何か知らない?」
「ん?知らない。」
(何か嬉しそうだなサイの奴……絶対何か知ってる顔なんだけどなぁアレ……。)
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