デイダラ長編 | ナノ
19/2.














雨が降らない限り、アタシは毎日そこに行った。






「あ!おーいname!こっちこっち!」






その日顔を合わせるや否や、満面の笑みで手を振ってくるチョンマゲ頭。






もちろん一緒に遊びたかったわけじゃない。

それでもアタシがここに通うのは、お願いされたから。特に大人からのお願いには弱い。






ー「出来の悪いウチの息子と、まぁ仲良くしてやってよ。ね?」ー






というより大人からのお願いは、アタシの中ではイコール命令だ。

そうしなければいけない、絶対的なもの。じゃないと叱られる、ガッカリされる。



この頃のアタシにとって、大人はそれくらい影響力があるものだった。






「なぁname!今日はオイラのスコップ貸してやるよ、うん!あとジョウロもバケツも、使いたかったら言ってくれよな!」

『……別にいらない。』

「ガーン!!えー何だよ!女の子には親切にしろって、母ちゃんの嘘つきぃー!!」






アタシに背を向け、まるでやまびこするみたいに向こうの林に叫ぶチョンマゲ頭。






(だってスコップなんて使わないもん。アタシ、小山作るだけだから……。)






それを口で言わないから、チョンマゲ頭は単純にアタシから嫌われてると思ってるみたいだった。






そんなある日、アタシがいつもみたいに顔を出すと。

その現場では、主に女の子たちによる人だかりができていた。






「ねえねえチョンマゲくん!今日もお砂で何か作るの?いっつも遠くから見てるけどすごいよねー!」

「あたしたちも混ぜてー!一緒にお城つくろーよ!」






いつも周りの遊具で遊んでいたその子たちにキャッキャともてはやされて。

当の本人もまんざらでもないようで、ハンッと得意げに鼻を鳴らしていた。






「まぁオイラの作品はアートだからな、うん!そこまで言うなら一緒につくってやってもいーぞ!」

「キャーやったやったぁ!」

「じゃあアタシはお城の壁つくる係!」

「あたしはトンネル掘るね!スコップもーらい!」

「それはまだ!お城つくらないとトンネル掘れないでしょ!」






そう言って喜び勇んで砂場に足を踏み入れる女の子たちは、チョンマゲ頭の持ってきたバケツやスコップを手当たり次第に使い始める。



ずいぶん賑やかになったその場所に、アタシの気が滅入っていると。






「あ、おまえら!もうすぐnameのやつも来るから、それから始めよーぜ!うん!それまで必要なものそろえてっと、」

「えー?あの子も一緒じゃなきゃ駄目なの?」

「あたしもあの子きらぁい。だって前に遊ぼって言ってあげたのに無視するんだもん。」

「それにね、あの子の家の親ってろくでなしなんだよー?」

「あーあたしも知ってる!ママが言ってたもん!だから一緒にいると呪われるよー?」

『っ……!!』






そんな、違うもん……ママはろくでなしなんかじゃないもんっ…。






自分がどう言われようと平気だ。

けどパパの悪い噂も相まって、アタシのママまで悪く言われて……胸の奥がズキンと痛んだ。






「知るかよそんなの、うん。」

『!!』

「オイラはnameと遊びたいんだ。あいつの親がどうだろうが知ったこっちゃないっての。」






アタシが驚いて顔を上げると。

立ち上がったチョンマゲ頭が、ズンズンと女の子たちの前まで歩み寄って。






そうしてスコップやバケツを握るその手から、バッとそれらを奪い返した。






「それとオイラはnameのこと悪く言うヤツとは遊ばねーよ、うん!おまえらなんかあの芸術性のカケラもないオモチャで一生遊んでろ!あっかんべーだっ!」

「うわぁサイテー!」

「やっぱり変な子!みんなあっちで遊ぼ、もう混ぜてあげないんだから!」

「べ〜っだぁ!!うん!」






ついには嫌われてしまったようで、またその砂場はチョンマゲ頭一人になっていた。






そんなケンカの後なのに……アタシは何故だが、口元が緩みそうになって。

それを必死に堪えながら、何も知らない風を装っていつもの砂場に立ち入った。






「あ、nameやっほ!やっと来た!オイラ待ちくたびれたぞ、うん!」

『は……はよ……。』

「なあ!そういえばおまえん家の親ってろくでなしなんだってな!」

『…………。』






……少しでも気を許したアタシが馬鹿だった。

デリカシーのかけらもなくそんな事を言ってくるチョンマゲ頭に、アタシはもう何を返事することもなく離れたところに腰かける。






「何だよ、じゃあさっきのヤツらが言ってたことホントなのか?」

『やめて、これ以上ママのことひどく言ったら許さない。』

「何だ、じゃあおまえの父ちゃんのほうがろくでなしなのか?うん?」

『っ……、』






図星なことを突かれ、アタシは何も言えなく押し黙る。と、






「うはは!じゃあどうってことないじゃん!」

『!?』

「オイラん家の父ちゃんなんか、他の女と何人も浮気して離婚しちゃったしな!うはははっ!」






そんな笑い事じゃない出来事を、さも愉快愉快と話するチョンマゲ頭。

ほんとに変な神経してる、でも……アタシはその話の親近感からか、このとき妙にホッとしていた。






「ほら!今日はおまえもつくるの手伝えよ、うん!」

『い…いい、アタシ下手っぴだもん……』

「だからオイラがいるんだろ?オイラが芸術的にしてやるって、うん!」






そうやって半ば強制的にスコップを向けられ。

変な仲間意識が芽生えたからか、アタシは渋々ながらもそれを受け取っていた。






「よーし!じゃあ今日は特大の砂のお城をつくってやるぞ、うん!」






なんて張り切っていたチョンマゲ頭だったけど……
























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「うわー何だよ!おまえってほんとうに下手っぴだな!」

『……だから言ったじゃん……』

「ココはもっとこーして、こうビタッとして、あと水はこんくらいにしないとビチャビチャで逆に固まんないだろ、うん!」






なんて解説するけど、感覚的すぎてアタシはさっぱり理解できないし、上達しない。



もう夕方だっていうのに、本来の形のまだ半分も完成していなかった。






『……もう嫌。もうアタシやらないから。』

「えー何でだよ!」

『もう分かったでしょ、アタシなんか足手まといだって……』

「なにバカ言ってんだよ!せっかく一緒に遊べたってのに、明日も特訓するからな!」

『やだよ、だいたい意味わかんない教え方するからじゃん。』

「はぁ?オイラちゃんと教えてるだろ!こうグチャってしてベチャになんないようにして、」

『そんなんじゃわかんないもん!』

「わかれよ!うん!」






なんてお互いがお互いにイチャモンつけて、そうやって収集が付かなくなっていると。






「nameっ……!!」

『!!あっ……、』






聞き慣れた声がして振り向いた。

そこには公園の入り口で息を切らせ、心配を通り越して絶望したような、顔面蒼白のママがいた。






『ママ……』

「探したのよname、こんなところで遊んで……あれほど部屋から出るなって言ってたのに、お願いだからママを困らせないでっ……!!」






咄嗟に駆け寄ってきては抱きつかれるアタシ、そのま泣き崩れてしまうママ。






「……この子は誰?さっきも喧嘩してたんでしょ?まさかアナタいじめられてたんじゃ……」

『え…あっ、その……』

「あなたがいじめられでもしたら、ママはどうしたら……」






そう言ってまた顔を覆ってしまうママに、アタシの心はいたたまれなくなって。
























『…………とっ……ともだち、なの……。』

「え……」

『引っ越して来たばっかりで、この辺のことよく知らないって……それでいろいろ教えてあげたら、ここで遊ぶようになって、その……』






……友達なんかじゃ、ない。

だけど今のママを安心させたくて、咄嗟に口がつらつらとそんなことを並べていた。






『だから大丈夫…ママ、安心して。』

「……きみ、そうなの……?」






アタシはギクリとした。

さっき散々遊ばないだの喧嘩していたのに、こんなアタシが一方的に友達だなんて。






ーーー違うって、嘘つきだって、言われちゃう。

またママを困らせちゃう……っ!!






「うんっ!オイラnameと毎日遊んで楽しいぞ、うん!」

『!!』






そんなアタシの心配を他所に、チョンマゲ頭は満面の笑みでそう答えた。






「そうなの……良かった。あなたにおんなじくらいのお友達ができて。」

『!ママ……、』

「ごめんねname、不自由させたわね……だけど帰りが遅くならないようにだけして、ママにはあなたしかいないから……。」






そう言ってまた抱きしめられ、アタシの視線がチョンマゲ頭とぶつかる。

チョンマゲ頭は手を頭の後ろで組んで、なんてことない様子でニコニコしていた。


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