1.
『大きくなったら結婚しようね!』
「あたりまえだろ、うん!」
そう言ってお互い手を取り合っていたのは、今は昔の話。
あぁ、それがいつからだろう。
『大きくなったねデイダラ。結婚しよっか!』
「却下。」
ただのツンデレに、なってしまったのは……。
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休日デートという名の買い出しで、そう発言するアタシに反して。
幼馴染みであるデイダラからは、もはやドライな返事しか返ってこない。
『え〜何で?ちっちゃい頃はOKしてくれたのに。デイダラの好みは、あのピチピチギャルになってしまったのかい?』
「ちょ、馬鹿指差すな!あーもう何かこっち変な目で見られたじゃねぇか!うん!」
『だってそうとしか考えられんじゃないかワトスンくん、』
「ワトソンだろ!」
『いやはや、君がすっかり僕を恋愛対象から外してしまうとはね。むむ!これはよっぽどスレンダーな子が好みと見た!』
「そんなの推理でも何でもないだろ、うん!つーかパーティー眼鏡つけた顔で言うな!とっとと戻せ!」
そう言ってアタシから売り物のパーティー眼鏡(黒ぶち眼鏡にウソくさい鼻と髭がついたアレ)を引ったくり、元のマネキンにかけてあげるデイダラ。
……ちょっとキュンときたじゃないか。胸キュンだね、うん。
「いいから早く済ましちまえよ、夕飯の買い出し。今日も一人なんだろ?」
『まぁまぁいいじゃないか、たまにはゆっくりウインドウショッピングでも。ほらこんなところに……はいデイダラ!このうさちゃん買ってきて!』
「……!欲しいのか、よ…?」
『それ毎日枕元に置いて話しかけてね?夢の扉が開くかも。アリス・イン・ワンダーランド、デイダラver.!萌えっ!』
「ってオイラにかっ!!誰がアリスだふざけんな、うん!!」
『えー、』
そうしてアタシが手渡したうさちゃんぬいぐるみは、あえなく仲間たちのいるモフモフ畑に撃沈した。
さっきのパーティー眼鏡の戻し方とはえらい違いである。
「お前はほんと余計なことしかしねぇんだからよ。よくそんな幼稚な発言思い付くよな、うん。」
『むぅー!だってだってだってぇー!デイダラが冷たいんだもん!何でそんな虫も好かないような顔するのさ!あーんデイダラのウジ虫!うーじうーじ!もう一緒に買い物なんてしてやんないんだから!』
まぁいつも駄々をこねてつれ回すのはアタシの方なのだが、この際勢い任せで言ってみる。
するとどうだろう、散々嫌々な態度だったデイダラが途端に大人しくなり。
アタシをチラチラ見ては、何か言い淀んでいる様子。
「なぁ、name……お、オイラだって鬼じゃないからな。」
『うん?』
「その、結婚しようとか散々言うならよ……それなりにオイラのこと男扱いしろって、うん。」
『?デイダラってば男の子じゃないか。』
「あーもうだからぁ!お前いっつもオイラを振り回してばっかだろ、うん!少しはこう……甘えるとか…?」
『よーしよしよしよし、よーしよしよしよし、』
「それは“甘やかす”だろ!しかも動物相手みたいにすんな!ム○ゴロウか!」
『だってアタシはデイダラに甘えて欲しいもん。ツンツンデレの最骨頂だよきみは!我が国の宝だ、国宝級だ!』
「褒められても嬉しくねぇー!!」
何やらもどかしくなったらしい彼は、ついにはそのつややかな金髪をかき乱してしまう始末。
ほんと羨ましいくらいのストレートだなきみは。癖っ毛なアタシへの嫌味なのかいそれは。
「ねぇねぇそこのキミ、ちょっといーい?」
『?んはい、何か?』
「ここに行くまでの道教えてほしいんだけどさ、」
すると突然肩をトントンされて振り返れば、ちょっとチャラついた年上のお兄さん。
いい歳して迷子とは、なかなかアタシといい勝負じゃないか。
『えーと、どれどれ……あぁ!あそこの道ですね!簡単簡単!よければご一緒しましょうか?』
「え、マジで!?いやぁ助かっちゃうなぁ、」
『いえいえ何のその、困ったときはお互い様でしっ!!』
「何また勝手に話進めてんだよお前は!!」
だがそんなアタシの頭には、背後から見事なチョップがおみまいされ。
『でしっ』と最後だけ舌を噛むようになってしまった。完全に語尾が痛い子である。
『いたたたた……何をするんだいデイダラよ。あやうく舌まで噛むとこだったじゃないか。』
「どうでもいいけど、で何だよ。道聞かれたって?」
『あ、うん!ほらここ!駅前のさ!』
「馬鹿、こういうのはな。」
そうして言葉を一旦区切れば、デイダラは常日頃から持ち歩いているボールペンでサラサラと何かを書いていく。
―――ピラリ。そうして最後に出来上がったのは……地図だ。
その目的地までの詳細まで、事細かに書いてある。
即興スキル、恐るべし。
「ほら。これでいいだろ、うん。」
「あ…あぁ、兄ちゃんサンキューな。」
「もう二度と話しかけんな。行くぞ、うん。」
最後にそう吐き捨てれば、デイダラは早々にアタシの手を引っ掴む。
そうしてやや荒い足取りの彼に、アタシは食料品売り場まで連行された。
『うわっちょ!おいおいデイダラ、何もあそこでツンツンパワー全開にしなくても、』
「誰のせいだと思ってんだよ!つーかそもそも、あんな駅前の道わかんねぇ奴いる訳ねぇだろ!」
『はん…?』
「はん?じゃねぇよ!ったく、ベタな展開で声かけられやがって。怪しい奴にはついていくなって、小学校で習わなかったか!?うん!?」
『何を言うかねデイダラくん、あの人は至って普通の一般ピープルじゃないか。覆面だって被ってなかったし、』
「いつの時代の銀行強盗だっ!!そんな見るからに怪しい奴いるわけないだろ!!」
今日もツッコミ絶好調な彼は、そう言ってアタシに買い物かごを握らせると。
チラシでも見たお買い得商品を、ポイポイとかごに放っていく。
いやしかし、もうちょっと丁寧に扱ってくれないものかねデイダラくん。野菜たちが泣いてるよ。
「ったく、人の気も知らないで……」
『!』
「いっつも一人で突っ走ってんなよ、馬鹿……。」
少しトーンの下がった声で、力なく呟かれた言葉。
横顔の幼馴染みの顔は、その長い前髪で隠れてよく見えない。
―――でもアタシはそこでようやく、自分が心配されていたことに気づいた。
『……デイダラありがとう。守ってくれたんだね、アタシのこと。』
「っ…!」
『頼もしいなぁデイダラってば。』
気づいた途端、それが素直に嬉しくて。
アタシが頬をだらしなく弛ませていれば、デイダラがバッとこちらを振り返る。
『まるでお兄ちゃんみたいっ!』
「……あぁ、そう…。」
だがアタシが最高の誉め言葉を言ってしまえば、また元の萎びた葉っぱみたいになるデイダラ。
でもそんな態度とは裏腹に。
未だに繋がれたその手は、絶対に離そうとはしなかった。
……え?誰がかって?ア・タ・シ・がだよ!
お手て繋いで、「お会計1590円になります。」
『ほいデイダラ、お金とってって!早く!』
「つーかいつまで手ぇ繋いでんだよ!金の出し入れするときぐらい離せばいいだろ、うん!」
『だってこの方が何か楽しいじゃないか、共同作業みたいで。ほら!アタシがお財布広げてる間に、デイダラがその手で1590円掴みとるんだ!』
「アホかっ!!後ろのレジ混んでんじゃねぇか!うん!!」
「じゃあ2000円お預かりしますね。」
((あっ、お金抜きとられた……!))
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