デイダラ長編 | ナノ
16.














『ふふふーん♪何だか久しぶりだね!デイダラとこうして下校するなんて!ねぇねぇ寂しかった?アタシ居ないと寂しいデイダラ?』

「いや、別に授業に顔出さないことが増えたくらいで寂しいわけないだろ。うん。」

『ガツーン!出ましたツンデレ!!でもアタシには分かってるよデイダラ、それは愛情の裏返しなんだって!』

「はいはいはい、」






河川敷の丘の上でチャリを走らせるオイラ、その後ろに跨り涼しそうに風を受けているname。



とは言ったものの実際、nameの言ったことは間違っちゃいないのかもしれなかった。






(まぁ確かに、毎日顔合わせないわけじゃねぇんだけどよ……。)






そう思いながら、オイラは前髪が執拗に当たる箇所をポリポリと掻く。



こう、なんつーかよ……休み時間とか放課後とかっていう自由時間にnameが居ないことが多かったりするわけで。






ー『ねぇデイダラ、その髪ツインテールにしてよ!お願いお願い!』ー

ー『ジャーン!やっぱりオムライスの醍醐味はケチャップでしょ!どう?可愛いでしょ?』ー






あの馬鹿みたいな会話が、案外貴重な時間だったなんて。

今になって、オイラは少し思い知っていたりする。






まぁそんなダセェこと、nameには口が裂けても言えねぇけどな。うん。






「あー……そういやもうすぐ夏休みだっけな。うん。」

『あ、そっかぁ。じゃあ当分は学校で会えなくなっちゃうんだね。』

「いや、別にわざわざ学校で会う必要ないだろ。去年だってお前散々オイラん家入り浸ってたしよ、うん。」

『え?あ、あぁそっか!そうだよね!!デイダラとは毎日会えるもんね!!あは、あははは、』






なんてやたらそれを肯定するように何度も頷く様子が、オイラの背中越しにも充分伝わってきた。






当然、その違和感に気づかないオイラじゃない、けど。

それにすぐさま被せるように、nameの奴が新しい話題を投げかけてくる。






『そうだそうだ、聞いてよデイダラ!!この間アタシってば、これから始まる夏休みをより有意義にする方法を発見したよ!!』

「はぁ?どうせ山で虫取りだとか川でスイカ割りだとか、そんなやつだろ?」

『ふふふ、デイダラくん甘い!甘々だよ!!そんな小学生みたいな考え方じゃ、この先の流行についていけないよデイダラくん!!』

「いや、事実それ去年やってたしなお前。あと見た目も中身も小学生なお前に言われたくねぇよ、うん。」

『まぁまぁ聞きたまえよ、それはね……』






そう言うnameは、よくクイズ番組とかの解答を勿体ぶるときに使う、あのドラム缶の音を再現したいのか。

『ダララララララ……デーデンッ♪』という声に合わせ、オイラの背中をそれに見立てて連打する。地味に痛ぇ。






『それはズバリ!!“夏休みの宿題は夏休み前に終わらせよう”計画!!どう!?すっごいでしょ!?革命的でしょ!?』

「……いや無理だろ、うん。お前去年だってお盆過ぎにようやく宿題に手ぇつけ始めてたくらいだし。」

『ふふふ、まぁまぁ見てなはれ!今年のnameちゃんはひと味もふた味も違うのですよ!』






いや、そうやって一人で鼻を鳴らしてるとこ悪いけどよ、うん。

去年夏休み末期にトビの野郎とオイラん家押しかけて、もはや神業的スピードでペンを走らせてた姿がこの目に焼き付いてんだって、うん。



まぁ当然のごとく中身はテキトーなもんだから、結局は休み明けに廊下に立たされる羽目になるんだよなこれが、うん……お前ら揃って馬鹿友か。






「まぁ目標掲げるのは悪いことじゃねぇけどよ、うん。あんまし高い目標はかえってやる気が、」

『あーデイダラ!!ちょっとストップストップ!!』

「は?ってうわ!!ちょ、危な!!」






だがストップと言いつつ既に荷台から飛び降りたname。

途端に軽くなるもんだからバランスを崩したオイラは、危うく転倒するとこだ。






ようやく体勢を立て直して見た先では、河川敷を下った先の道路際にしゃがみ込んだ幼馴染みが。






『みてみてデイダラ!こんなとこにお花だよ、花束だよ!交番に届けてあげよっか?』

「いやお前これ落し物じゃねーよ!!そいつは数年前からずっとここに供えつけてあんだよ、うん!!」

『お供え物?』






後からチャリを引いてきたオイラにそう言われて、nameの奴ようやく思い出したのかポンっと一人手を打つ。






それは大型トラックと乗用車の衝突事故。原因はトラック運転手のよそ見運転。

そのときここの横断歩道を渡っていた小学生の列を庇うように、乗用車のハンドルは切られていたんだとか。






『……そっか、あのニュース。もう随分前の話だよね。』

「毎度毎度新しい花に差し替えたりして、ご苦労なこったよな。うん。」

『デイダラは何とも思わないの?』

「何とも思わないわけじゃねぇけど、ここオイラの通学路だし。いい加減見飽きたっつーか、けどよく未だに風化しないよな。どっかの誰かが……まぁ遺族の類いが供えつけてるだけかもな、うん。それこそその死んだ奴、挙式も挙げたばっかで嫁がいたみたいだし。」

『……好きな人よりも優先すべき相手かぁ。』

「は?」






おもむろにそんなことを呟いたかと思えば、nameの奴は更に続ける。






『大好きな奥さんを守っていくはずの人が、目の前にある命を優先して守った……この人は、そういう選択をした。この人にとって、それは好きな人と居ること以上に大切なことだったんだよ、きっと。』

「……name、お前頭打ったか?」

『うふふふふ、びっくりした?nameちゃん賢くてびっくりしたデイダラ?』






……ウ・ゼ・エ!






心の中で呟くも、顔にはしっかり出てしまうオイラ。

けど確かに、いつものnameからは想像もつかない言動が、今日はやたら目立つのも事実で。






『nameちゃんは少しずつ大人になっていくのですよ。』

「!」






そう言って満足そうに立ち上がり、夏の日差しを受け伸びをするnameに。






オイラはこのとき、変に期待しちまったんだ。






ー『ねぇねぇデイダラ。結婚式のときって、指輪とファーストキスってどっちが先だっけ?』ー






散々子供のまんまだった幼馴染みが、ようやく成長の兆しを見せているなら。






ー『ほらほらデイダラ!すごいよ、猫ちゃんたち交尾してる!すごいね、生命の神秘だね!』ー






この先少しは年相応に、オイラと向き合ってくれるのなら。

そんなnameの心境の変化も、まぁ悪くないのかもしれない、なんて。



nameはいつでも、オイラにそれを送り続けていたのに。
























遠のくサイン、

“オイラの知らないname”になりつつあるのを。

このときオイラは、まだ見抜けない。


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