8.
もうすぐ季節は夏。
夏と言えばプール開き?いや惜しい!夏と言えば……!
『わーい!プール掃除だぁ!』
「何でそんなにはしゃげるんだよお前は!これどう見たってただの罰ゲームじゃねぇか、うん!」
そう幼馴染みにつっこまれるが、アタシはいたってテンションハイだ。
なんてったってプール掃除は、水にぬれないようズボンは上まで捲られる。
絵の具のついたズボンを太ももまで捲ったその姿なんか……ぐはっ!デイダラの生足!眼福眼福…。
「つべこべ言ってんじゃねぇよデイダラ。出席番号の早い順に各クラスから5人選抜されてんだ。まぁ諦めるんだな。」
「そう言う旦那も負け組だよな!?出席番号1番だもんな!?何で若干上から目線なんだよ、うん!?」
「見てくださいよデイダラ先輩!プール脇の林にカナヘビいましたよ!いや〜可愛いな〜癒されるな〜。あ、nameちゃんの可愛さには負けるっスね!」
『うはは、トビくんまたご冗談を〜!』
「お前らは関係ないことで遊んでんなよ!!」
柄の長いブラシ片手に、デイダラはビシバシとつっこみを連発する。
何だかんだ言って、デイダラが一番元気だよね。
「おいテメーら、こっからこっちがオレの陣地だからな。ここ以外んとこ徹底的に掃除しろよ。」
「え〜それはズルいっスよサソリさん〜!そんな1メートル四方もないようなとこ……それよりここからあそこまで、誰が一番早くブラッシングできるか競争しましょうよ!」
『わお!それはいいねぇいいねぇ、楽しそう!』
「んじゃあビリだった奴、この後全員にアイスおごれよ。購買の一番高いやつな。」
「さすがサソリさん、勝負ごとになると目の色が変わるっスねぇ。」
『アタシやるやる〜!……ってあれ?デイダラは?』
アタシがキョロキョロすれば、さっきまでツッコミ絶好調だったデイダラはまだプールサイドに。
縁の部分に座り込んで、プール側に足を出したり引っ込めたりしている。
『?デイダラどしたの?早くおいでよ。』
「だっ、だってよ……このプールの底、何か汚れとか洗剤とかでヌメヌメして気持ち悪いし…、」
「んなもんローションだと思えばどうってことねぇだろ。あぁ、オナホ使ったことねぇテメーに言ってもわかんねぇよなぁ。」
『アナゴ?』
「ぶっ!!」
アタシがハテナマークを飛ばしていれば、デイダラが盛大に唾を吹き飛ばしていた。
まったくデイダラってば、汚な……くない!許す!
「だだ旦那!!学校でそういうこと言うなって、」
「あの気持ちよさを知らねぇとは、人生の半分は損してるってのに。可哀想な奴。」
「え〜何々サソリさん、その話ボクにも詳しくぅ!」
『アタシにも〜、ぐへっ!』
「お前は意味もわかんねぇで悪ノリすんな!!」
アタシの襟首を引っ掴みにきたデイダラは、どうやら意図せずプールに足をつけてしまったみたいで。
後になって、またその顔をしかめ出す。
「うげっ、やっぱ気持ち悪い……」
「あの気色悪ぃ粘土とはオトモダチなくせによ。すぐ慣れんだろ、こんくらい。それに見方を変えろデイダラ、この足の裏のやつ全部nameの愛液だと思えば、」
「だあああもう分かったからそれ以上言うなあああ!!!」
「うるさいっスねぇデイダラ先輩。」
『ほんとだねぇ。でもどうしてあんなに騒いでるんだろうデイダラってば。』
「興奮してるんスよ。それより早く始めましょうよぉ!」
『そだね。はいみんな位置について〜!』
他の生徒もいる中、アタシたち4人はプールの端を陣取りスタート体制に入る。
距離は25メートル……アタシの掛け声で、走者一斉にスタート!
『うぇあ!つるっつるだぁ!滑る〜けど楽しい〜!』
「お前邪魔。お先、」
『あーサソリ待って!置いてかないでぇ!』
「勝負してんのに待っててやる義理がどこにある。つーかオレは待つのも待たせんのも嫌いだ。」
「ずばばばばば!!ボクが一番乗りぃ〜!!」
『うきゃートビくん速い〜!カサカサ動いてゴキブリみたい!』
「つーかお前そんなんじゃ確実にビリだろ、うん。」
するとアタシの背後で声が。
見ればデイダラがつまらなそうに、のこのこアタシのすぐ後ろを“歩いて”いる。
……アタシ、これでも走ってるんですけど!
『あれまデイダラ、まだこんなとこにいたの?』
「お前どうせすっ転ぶだろ、うん。だからこうして見張ってんの。」
『わぁ、ありがとう!じゃあ一緒にゴールしようよ!』
「やなこった。オイラだってビリはやだ、うん。ここまで来りゃあもういいだろ、じゃあな。」
『あー!!ズルいよそんなの〜!!待ってってばぁ!!』
残り10メートルというところで、デイダラはブラシの柄を構え直し、独走態勢に入る。ひ、非情な!
つるんこっ!
『あ、』
と、ここでアタシの足の裏は摩擦ゼロに。
しかも何故か後方に向かって倒れこもうとした矢先。
―――咄嗟に伸びてきたブラシの棒が、アタシの背面に通される。
「馬っ鹿!いわんこっちゃね……ぇ……、」
もちろんそれは、一番アタシの近くにいたデイダラによる助け舟だったのだが。
アタシはアタシでヌメヌメの刑にはなりたくないため、デイダラの胸板のTシャツをぐわしと掴んだ。
「ば!馬鹿お前どこ掴んで、」
『ひっ、や、は、おお落ちる……!』
今アタシの体を支えているのは、背中に通されたブラシの柄一本。
鉄棒のようにそれを構えたデイダラを正面に、アタシは未だ背中をのけぞらせたまま動けない。このままでは非常に危ない。
ぎゅむっ…
アタシの握る手に力がこもる。
『は、放さないで……!』
「……!!」
アタシが涙ながらに訴えれば―――デイダラの瞳が、ぐらりと揺らいだ。
「おーおー随分お盛んなこって。」
「っ!?」
『うぎゃ!!』
ついでにアタシの体もぐらりと揺らいで。
べちゃっと、それはそれは盛大にお尻をついてしまった。
「あーあーnameちゃん、汚れちゃったっスねぇ。」
「だ…旦那が変なこと言うから…!」
『うぇえ……ねっとり…、』
「ある意味ローションまみれだが、まぁ汚ねぇからあんまそそんねぇな。」
「もうその思考回路やめろよ旦那!!」
『デイダラの馬鹿ぁ……あそこまでいって、何も放すことないじゃないか。』
「お前だって……へ、変なこと言うからだろ!?」
「見苦しいんだよデイダラ。まぁ勝負としちゃあ、nameがこんなあられもない姿にされたわけだし。つーことでデイダラ。テメーがビリだ。」
「はぁ!?」
「やっぱり先輩の負けっスか。今日の運勢で先輩のおうし座、散々っしたからねぇ。」
「そんな乙女な情報いらねぇよ!つうか今更言うな!」
『デイダラ、アタシにこのおズボン貸してよ。どうせ制服着ちゃうんでしょ?』
「ズボン引っ張んな!!つーか今さっき穿いてたやつをそんな、かっ貸せるわけ……」
「あーこいつ今、変なこと想像したぞトビ。まったく青いケツのガキはこれだから……。」
「ホントっスねぇサソリさん。今脱ぎたてほやほやのジャージがnameちゃんに…とか想像して、鼻の穴膨らませてたんスよきっと。」
「……っ!!言わせておけばトビてめぇ〜〜〜!!」
「きゃあ〜!先輩、襲うならnameちゃんはあっちっスよ!」
「うぜぇ!!トビ、テメーもう許さねぇ!!」
そうしていつもの如く、デイダラとトビくんの追いかけっこが始まってしまった。
まぁ何だかんだで、今日も平和でした。チャンチャン。
君の輪をつなぐ、『うわぁ、デイダラのズボンぶかぶかだぁ。ほら、パンツ見えちゃうよ。』
「色気ねぇパンツ。」
「ってなに見せてんだ馬鹿!!」
『あいたっ。』
「あはは、nameちゃんらしいっスねぇ水玉パンツなんて、」
「死ねトビ!!」
「ぶひゃああ!!何でボクだけ〜!?」
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