3.
そもそもオレがnameの奴を見留めたのは、ほんのちっぽけなきっかけだった。
「角都ぅ〜、暇ぁ。」
「だったらさっさと本業を全うしてこい、このニートが。」
「だってつまんねぇんだよなぁ、死人の魂を刈る仕事なんてよぉー。奴らのリアクションも見飽きたしー。」
オレが胡座をかいたまま、器用に大鎌を振り回せば。
管理職だかっつうお偉い仕事を任されている角都は、またいつもの人を蔑むような視線をよこした。
「貴様がもっと馬車馬のように働けば、この死神界も潤うんだがな。」
「大体わりに合わねぇっつうの?そんな死に損ないのとこに駆けつけてやるだけでも、こっちはどんだけのカロリー消費してると思ってんだよ、計算したことねぇからわかんねぇけどな!」
「……貴様、そんなに自分の頭の悪さを公表して楽しいのか。」
「べっつにぃ〜。けどよぉ、いくら馬鹿なオレにだって、今の仕事が要領悪いってことくらいわかるぜぇ?あっち行って次はこっち行って、またそっち行っての繰り返し。」
「それが仕事というものだ。馬鹿で低脳な貴様にも出来得る最低限度のな。」
おいおい聞いたかよ、今日も毒舌絶好調だぜ角都の奴!
しかも金数えながらだしな、オレの相手してんのも。
いっぺん言ってやりたいぜ!お金とワタシどっちが大事なの!?ってな!
「もちろん金だ。貴様など眼中にすら入らん。」
「っておい!勝手に人の思考回路読むなよな!」
「分かりやすい顔をしている貴様が悪い。それより口を動かす暇があるなら働け。この世界で働かないような死神は、じきに死に行く運命だぞ。」
「わぁってるけどよぉ、オレにだってイチ労働者としての人権ってぇの?があるわけだし?オレはもっとこう、ゆとりある死神活動がしてぇんだよ。なあなあ角都ぅ、なんかいい仕事ねぇかなぁ。」
「ハァ……仕方がない。ただしこれっきりだぞ。」
お、けど何だかんだ言っても、死神界一のドラ○もん。
いっつものび太なオレに、こうやって都合のいい話を持ってきてくれんだよなぁ。ゲハ!
そうして、その腹の四次元ポケットならぬ袖口から取り出されたのは……顔写真つきの手配書、のようなもの。
いわゆる死亡予定者リストってやつだ。
「この中からどいつか好きな奴を選べ。貴様は今日から、そいつ一人をマークすればいい。報酬は並以下だが、死に急ぐよりはマシだろう。」
「おぉ、さっすが角都ぅ!話がわかるぜぇ!どれどれ……うげぇ、どいつもこいつも老い先短そうな面ばっか。」
「この話に乗らん以上は、俺にも手がつけられんからな。まぁそのときは勝手に、その辺でのたうち回って死ぬことだ。」
「またまたぁ、そんな物騒なこと言ってよぉ!そんなこと言ったって、肝心なときにはいつだって助けてくれんの、オレはちゃあんと知ってんだぜ!ったく、ほんとオレのこと好きなんだからな角都ってばよぉ!」
「貴様の低脳な発言には毎度ヘドが出る。」
何やら角都の奴が毒を吐いているが、そんなもん今のオレには届かない。
既に鼻唄混じりにごしゃごしゃと手配書をかき回していれば。
―――そのかさばった中にある一枚を見て、ピタリと手が止まった。ついでに鼻唄も。
「…お〜い角都ぅ、こいつなんてどうだぁ?」
「ほう、字も読めん貴様にも見つけられたか。どれ…………女、か。名はname、歳は15。この歳で癌をわずらっているな。現状からして、先行きはあまり思わしくない、と……まぁ悪くないだろう。」
「んじゃ今日からオレそいつの担当な!絶対他の奴つけんなよ!つけたら呪ってやるからなぁ!」
そう念をおせば、オレは早速意気揚々と歩き始めた。
気分はなかなか上々ってやつだな、ゲハ!
まぁ途中階段があることを忘れて、派手にずっこけたのはお約束ってやつで。
幸先、急降下「っ痛てぇー!!何でんなとこに階段なんかあんだよ!!来たときにはなかっただろうが絶対!!……ってあれ?そういやあったような気も……ま!どっちだっていーか!ゲハハハハァ!ゲハ!」
「貴様はほとほと間抜けだな。」
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