2.
いざ話をしてみれば、nameは不思議な女だった。
こっちがいくら脅しをかけても。
フワフワした綿毛みたいに、それらをすべて受け流す。
『死神さんにはさ、好きな人いるの?』
「“飛段”だっつってんだろぉ!いい加減名前くらい覚えろっての!」
『ふーん……で、好きな人。いないの?』
「…………。」
『…………。』
「…………。」
『…………大変なんだね。』
「勝手な解釈してんじゃねーぞテメー!!」
オレの反応を面白がって、nameは腹を抱えて笑う始末。
オレに好きな奴?ハッ、言えるわけねぇだろ。
『私はいるよ、好きな人。もう会うこともないだろうけど。』
「…………。」
―――言えるはずがねぇ……オレがnameを好きだなんて。
「失礼するよ、nameちゃん。」
『!』
「そのままで聞いてくれ。親御さんが面会に来てるから、通すよ。」
ノックのあと、すぐに入ってきた数人。
多分あれがnameの父ちゃんと母ちゃん。
nameの奴は母ちゃん似だった。
『お父さん、お母さん!いらっしゃい!』
「まぁname、元気そうね。近々また手術らしいから、これからもっと良くなるわよ。」
「もう少しだからな、それまで辛抱しろよ。」
オレの目の前で繰り広げられる、その仲睦まじい会話はしばらく続いた。
オレは、意味もなくその光景をボーッと見てた。
---------------
ガチャン、
そうしてようやく騒々しいのがいなくなれば、nameがオレの方を向く。
『素敵な人たちだったでしょ?私の自慢の両親っ。』
その顔は、久々に水をさされた花みたいに潤ってた。
けどnameをそんなにさせる両親なんて、オレがぶっ潰してやれたらどれほど気分がいいだろう。
まぁそれは、nameの両親に限った話ってわけでもない。
―『あ、私このアーティスト好きだよ!またライブ見に行きたいなぁ。』―
―「へー……、」―
―『あ!ここ修学旅行で行く予定なんだって。いいよなぁ〜。』―
―「はー……。」―
―『うわぁ美味しそ〜!私エビチリ大好きなの!今度給仕の人に頼んでみようかなぁ。』―
―「…………。」―
そう……この世にはnameの奴を縛りつけるもんが、いくらでも溢れてる。
『死神さんのことも、紹介したかったな。でも、みんなには……死神さんのこと、見えてないみたい。』
「あたりめぇだろ?オレら死神は、この世じゃ死期が近い人間にしか見えねぇんだから。」
けど知ってたか?
nameにしかオレの姿が見えないように、オレの目にはnameしか映らねぇってこと。
そこでオレは、既に定位置となった窓枠から腰をあげると。
おもむろにnameのベッドまで歩み寄り、その首に手を伸ばす。
スッ……
途端にすり抜けてしまうオレの手を、不思議そうに眺めるname。
『……何?何かついてた?』
「…………。」
その首を締め上げられたら、オレはすぐにでもお前を連れてあの世に逝けるのに。
けど死神が手を下せるのは死人だけ。
まだ生を宿す人間には、触れることさえ叶わない。
『死神さん、明日お外に出てみよっか?私のお気に入りの場所があるの、そこに連れてってあげる!』
そう、この世には、nameの奴を縛りつけるもんがいくらでも……。
(……あぁもう、クソッ。)
独りよがりな片思いいいから早く死ねよ、バーカ。
prev | next