35.
イタチ兄さんは今日、新幹線に乗って帰るらしい。
「送っていこうか」って言われたけど、さすがにこれ以上は迷惑なんてかけたくない。
アタシは、一人悶々とした気持ちで帰路につこうとしていた。
―「つまりサスケはお前に告白されるより以前に、ずっとnameのことが好きだったんだ。」―
……サスケくんの意中のヒロイン、だなんて。
普通の女の子だったら、そんな事実知った途端そりゃあもうときめくものなんだろう。
だがそれも今のアタシにとっては、脅迫文にも似た魔の宣告である。
―「姉さんの“これから”を、オレにくれ。」―
―――いや、その言い方はいささか語弊がある。
何せアタシは被害者ではなく加害者なのだ。
―「前々から言いたかった……姉さん、オレは姉さんの弟になりたいんじゃない。」―
悪いのは、全部アタシ。
好きだと言っておいて、いつだって彼から逃げていたのだから。
どんっ
『っ!いたた……すいません、考え事してて…………っデイダラ…!?』
「……name……?」
顔をあげて目と目が合えば、向こうでも驚いたようで。
その蒼い目を瞬かせ、キョロキョロと必要以上に上下する瞳孔。
まだ夏休み期間、久しぶりの友人との再会だった。
『久しぶり……元気だった?アタシはまぁ、それなり。あ、でもまだ夏休みの宿題終わってないや。はは、あったでしょ?数学のプリント。やっぱり一人じゃ、ちょっと苦手でさ。』
「……nameお前……何のサービスだよそれ、うん。」
『…………はい?』
さきほどからアタシの姿を見て固まっているのは、決して久しぶりだからという理由ではないらしい………って、あ。
(そういえば、アタシ今イタチ兄さんにチョイスされた服着てたんだった……。)
アタシの私服を見るのは、これが初めてではないデイダラ。
アタシの趣味から逸脱したその姿を上から下まで……特にスカートを凝視して、かなり目を丸くしていた。
『あ……ち、ちがうの!これはちょっと、昔の知り合いの人から貰ったやつで、今日たまたまその人に会ってて、』
「ふーん……まぁオイラはありだと思うけどな、うん。」
『……へ、はぁ…?』
さっきまでの考え事のせいか、そんな彼のフォローにも反応が遅れてしまう。
まぁでも大した意味はないだろう。
『それより、デイダラはこんなところで何してるの?家ならアタシとは反対方向だし、こっちの道に用なんてないはずでしょ?』
「あぁ……ちょっと旦那に頼まれてよ、うん。」
ぎくり、
アタシは不吉なものでも聞いたように、あからさまに顔を硬直させた。
もちろん、目の前にいるデイダラにはバレバレである。
「……name、まだ旦那のこと怒ってんのかよ、うん。」
『……怒ってるっていうか……いやでも、もうそういうのはないと思う。ただ………、』
―『……ごめん…ごめんサソリッ………!』―
―『あ゙っあぁ…サソリ…サソリぃ……!』―
……今サソリに会ったところで、まだ整理のついていないこの頭では。
反省の言葉より先に、更なる罵声を浴びせることしか出来ない気がして。
『やっぱり今は……サソリには、会いたくない。』
「…………。」
何も知らないデイダラは、依然その目でアタシを捉えているが。
アタシは、自分が何か汚ならしいもののように思えて、一向に目など合わせられない。
『ごめんねデイダラ、散々心配かけて。でももう大丈夫だから、今日まで相談に乗ってくれてありがとう。』
「…………。」
『サソリの誤解はちゃんと解けてるよ。確かに悪いのはアタシ……でもごめん、今サソリの奴に会っても、まともに会話できる気がしなくて……新学期になったら、ちゃんとアタシから謝るようにするからさ。それまで時間置いてお互い様子見て、』
「お前は本当にそれでいいのかよ、うん。」
サソリとの再会を引き延ばそうとするアタシに、そう意見するデイダラ。
何か訳知りのようでもあるその表情に、アタシが聞き返そうとしたのもつかの間。
「旦那の奴、入院してんぞ。」
『…………へ……?』
思考思惑、停止「まぁ医者の話じゃ軽い栄養失調だって話だけどな、うん。過剰なストレスが原因だって……聞いてんのかname。」
『…………。』
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