3.
サソリは昔からよくモテた。
そりゃあ女のアタシなんかよりも整った顔してるし?
えぇそりゃあもう自分が女に生まれたことが恥ずかしくなるくらい。
そんなとびきりの可愛い子ちゃんだ、女の子が飛び付かないわけがない。
「サソリくぅん、さっきの公式わかんないの。教えてくれなぁい?」
「ねぇサソリくん、お昼ご飯一緒に食べよ?」
「放課後どっか遊びに行こうよ!ねぇってばぁ〜、」
そんな聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフを浴びながら、当の本人はいたって淡白だ。
「お前らが今ここで自慰でも披露してくれたら、考えといてやるよ。」
……淡白に、変態発言をする。
それにキャーとはしゃぐ女の子たちが、アタシには理解できない。
『どうしてサソリってモテるんだろうね。変態なのに。』
「そりゃあ旦那は頭もいいしスポーツもできるし。何にしろ女ってのはイケメンなら何でもいいんだろ、うん。」
『デイダラも人のこと言えないけどね。この前隣のクラスの子に告白されてたくせに。』
「…ばっ!?み、見てたのかよ!?」
『飛段から聞いた。』
アタシがあっさり白状すれば、「あのヤロオオォ!」と一目散に飛段めがけて走り去っていくデイダラ。
うん、今日も平和で何よりだ。
「おい。」
そんな愛想の欠片もない声につられて顔を上げれば。
さっきまで女の子に囲まれていたはずのサソリが、アタシの机の前に立ち尽くしている。
『何よモテ男、女の子たちはもういいんだ?』
「おかげさまでな。毎度テメーが嫉妬するくらいの大盛況だ。」
『はいはいそうですか。で、何?その大盛況を振り切ってまで、アタシなんかに何の用?』
「学食行くぞ。」
『…………へ?』
思わず変な声をあげるもつかの間。
アタシの手首はガッチリと掴まれ、有無を言わせず教室から引きづり出された。
『ちょっと、いきなりどうしちゃったのサソリッ!しかも腕、痛っ!そんなに引っ張ってくれなくても一人で歩けます!って聞いてるの!?さっきから何をそんなに急いでるのよ!いつもは人混み毛嫌いしてるくせに、今日に限って学食なんて、』
「ほらよ。」
そうして混み合う人という人を完全スルーで連れてこられたのは。
綺麗に盛られた、学食の日替りメニューのド真ん前。
……ピタリ、
そこでようやく思考が一点に集中する。
『…本日限定・カシスオレンジ香る杏仁豆腐付き……?』
しゃがみこんだままのアタシが途端にガバッと奴を仰ぎ見る。
そんなアタシに、奴は満足そうに視線をよこした。
「好きだろ、杏仁。」
『……うん、好き。』
再び視線をメニューに戻せば、視界の横でサソリが会計へと向かう姿が映る。
(いつもならデイダラあたりをパシらせて買わせてくるくせに……。)
だがアタシの欲しいものを知り尽くしているサソリは、アタシの買い物にだけはこうして連れ立ってくれるのだ。
そんなところもアタシがよく知るサソリの優しさ……まぁ過程はかなり強引なのだが。
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そうして会計を済ませたサソリが、再びアタシの前に現れる。
騒々しい学食の空きスペースに、すかさず奴は腰をおろした。
「ほら、早く食え。」
『……って、あれ?サソリが食べるんじゃないの?』
「少食なオレがこの量食えると思ってんのか?」
アタシの目の前にドカリと置かれた定食。
てっきりデザートの杏仁豆腐だけくれるのかと思っていたら、どうやらそうではないらしい。
加えてアタシには持参したお弁当がある。
「安心しろ。お前をそれ以上太らせる気はねぇよ。」
『そりゃどうも。で、どうするのこの定食。半分コする?』
「馬鹿言え。オレが弁当食ってやるからテメーはそっち食え。」
『…え、でも冷たいよお弁当。』
「構わねぇよ。」
そうして半ば取り上げるようにアタシのお弁当を掴めば、慣れた手つきであっという間に包みを解いてしまう。
……備え付けのピンクの短い箸が、あまりにも不釣り合いだった。
『食べずらかったら学食の箸持ってこようか?』
「いらねぇ心配すんじゃねぇよ。オレはこれで充分だ。」
『そっか。身長もさることながら、お手ても可愛いミニサイズだもんね。なんかごめん。』
「張っ倒すぞテメー。」
さっそく卵焼きを頬張る口から、何とも物騒な言葉が炸裂する。おぉ恐い恐い。
だがそんないつもの掛け合いに吹き出した後、アタシは自然と笑顔になった。
『ありがとね、サソリ。』
「……!」
素直にお礼を述べれば、どうやら不意討ちらしく。
ほんの一瞬だけ箸を止めたものの、再び動き出したそれが今度は唐揚げを放る。
そうしてアタシを正面から捉える愛想のない瞳のまま、咀嚼していた口がそれを呑み込んだ。
「…………あぁ。どーいたしまして。」
……何て感情のこもってないお礼文句だろう。
かなり棒読みに近いものがあったが……まぁでも今回はいいよね。
意味、咀嚼する「そういやこの弁当お前が作ったのか?それともママさんか?」
『ううん。パパさん。』
「…………。」
『料理上手でしょ?うちの人。』
「野郎の手料理食って喜ぶ男がいるかアホ。」
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