33.
感ずいてたんだ……本当はその顔を見留めた瞬間から。
―「許してやってくれないか、サスケのこと。」―
今までどんな長期休みにも会いに来ることのなかった人物が突然訪問してくれば、嫌でもその線を意識してしまう。
「単刀直入に言うと……サスケはもう、お前に会う気はないらしい。」
『………っ…へ!?』
ベンチに背中を預けるようにして告げられたのは、その穏やかな口調にはそぐわない重要事項。
「はは……本当に何もわかってないんだな、name。サスケのことも、自分のことも。」
『…っ!何その言い方、』
「オレの口から言うのも何だが……お前は他人に興味がないのと同時に、周りへの警戒心も人一倍薄い。まぁでも、それも一つのnameの魅力かもな。」
『はぐらかさないで…っ!そりゃあサスケくんのお兄さんからしたら、アタシはまだまだ彼のことを知らないかもしれない……けどそんな一方的に“会いたくない”なんて、いくらなんでも通用するわけないじゃない!!』
一体人を褒めてるのか貶してるのか、でも今はそんなことどうだっていい。
『第一サスケくんもサスケくんよ!!どうしてそういう大事なことに限って、何も言わずに居なくなっちゃうわけ!?』
「そうだな。」
『そうだなじゃなくてぇ、どう考えたっておかしいでしょ!?そんなにアタシのことが嫌いになったんなら、正面からそう言えばいい!!』
「お前の言い分は確かにわかる。一見サスケの身勝手な振る舞いにも思えるだろうが……さっきも言っただろう?お前は自身を過小評価しているが、それに惹かれている奴もいると。サスケもその一人だった。」
『!!?え、』
「サスケはお前が思っている以上に、nameに惹かれてた。それもここ最近になってからじゃない、もっとずっと前からサスケは、」
『ちょ、ちょっと待って!そもそもサスケくんに好意を持ったのはアタシからで、少なくともサスケくんがそれに応えてくれたのは、ほんの数ヵ月前のはず……』
またもさりげなく、それでいて唐突だった。
さっきまで喉から出かけていた反論の数々は強制終了し、代わりに入ってきたその情報は、アタシの記憶を酷く混乱させた。
―「姉さん……オレはあんたを好きになりたくはない。」―
……そう、このときは確か、サスケくんが跡取りの話に絡んでたからフラれて。
おそらくこのときをきっかけに、彼の方でもアタシを意識するようになったんだと思う。
でも最近になってイタチ兄さんが事業に成功したから、サスケくんは晴れて自由の身になった………って、あれ?
でもさっきイタチ兄さんは自分のことを学生だって言うし………
「それに、オレもサスケの全てを把握してるわけじゃない。何せサスケがnameに好意を抱いていると知ったのは、少なくとも2年前……サスケが父さんに勘当された後のことだったからな。」
『か!?かかっ、勘当!?』
「おかしいと思わなかったか?二度と戻るはずのないこの土地に、サスケがたった一人で戻ってきたこと。」
『……いや、えぇ……!?』
「跡取りの話は真っ赤な嘘だ。父さんは厳格な人だが、無理にオレたち兄弟にそれを強制させる気はないらしい……つまりサスケはお前に告白されるより以前に、ずっとnameのことが好きだったんだ。」
話の冒頭にしては、あまりにも衝撃的だった。
そもそもアタシは、サスケくんが今どこでどう暮らしているのか知らない。
元々“うちは”はこっちが地元の人たちだし、てっきり親戚のご厄介になっているのかと思って、アタシもあまり詮索しなかったのだが……。
『か…勘当って……何で……、』
「もちろん、原因はお前だ。」
『!!え、』
「父さんもカンカンだったよ。たかが中学生の色恋沙汰で、人生を棒に振る気かって。でも、サスケも引かなくてな……そうしてこっちの学校に転入してすぐ、nameに会いに行ったらしい。」
ずるずるずるずる、
その後も芋づる式で出てくる疑問の数々は、余計にアタシをこんがらがせる。
―『やっぱり……サスケくんでしょ?うちの学校に転入してきたのって。久しぶり!来てたのならもっと早くに訪ねてくれればよかったのに!』―
そう、アタシがサスケくんに再会できたのは、彼が転入してようやく一ヶ月が経とうとしていた頃。その記憶に偽りはない。
だとしたらイタチ兄さんの見解が間違っているか、でなければ……
―――アタシとサスケくんの間で、大きなすれ違いが生じているか、だ。
「けどその日サスケは、懐かしいその家の玄関先で……成長したnameと、見ず知らずの“赤髪の男”を見たらしい。」
『ッ!!』
アタシが咄嗟にイタチ兄さんを振り返れば、その目の色は“赤髪の男”にシンクロした。
そのときの会話が目に浮かぶようだった。
―『ちょっとサソリ!今のどういうこと!?』―
―「テメーの授業プリントは、オレがこの上ないくらいの親切心でテメーの机の中にぶち込んどいてやった。何だよ、文句あんのか?」―
―『大ありよ!!明日は単語テストなのよ!?しかも一限目から!!』―
―「だったら明日は早起きするんだな。朝イチで学校まで勉強しに行けるなんざ、最高じゃねぇか。」―
―『冗っ談じゃないわ!!こうなったら今日は、あんたにとことん勉強付き合って貰うんだから!!覚悟しなさい!!』―
―「上等だ、何なら夜通しでも付き合ってやるよ。テメーが根を上げて泣き叫びながら“もう寝かせてサソリ様”と喘ぎ懇願するまで徹底的にな。」―
―『こっちのセリフよ!!絶対その無愛想な目の下に、そりゃあ大きな隈つくってあげるんだから!!』―
「あのnameが、冗談も言い合えるような親しい仲のようだったと。そうしてそのまま二人が、家の中に入っていくのを見ていたんだそうだ。」
“アタシはサソリと付き合ってなんかいない”―――そんな言い訳は通用しなかった。
だってこれじゃあ、まるで…………
「“あぁ、何だ馬鹿みたいだ”ってな。」
『………!』
「オレに電話かけて早々、言ってきたよ。それがサスケの第一声だった。」
傀儡(かいらい)に取り入った悪女まるで、アタシがサスケくんからサソリに乗り換えたみたいじゃないか。
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