31.
「name〜、母さん仕事行ってくるから、あとはよろしくね。あと御中元届くと思うから、ちゃんと荷物受け取っておいてよね。」
『……はーい…。』
「何なの、その気の抜けたような返事は。あぁもういいわね学生は、こんな暑い日に外に出なくてもいいなんて。」
実母からの愚痴に対し、依然くたびれたアタシはリビングのソファにうつ伏せている。
そんなアタシを羨む主は、玄関が閉まる音とともに消えていった。
……無論、結局母さんにはサスケくんのこと、伝えてない。
早くも夏休みは半ばを過ぎ。
サスケくんは今も、部活の長期合宿中でいない。
―『んあっ…サスケ、くんっ……、』―
―「姉さん…name……っはぁ…」―
……最低だな、アタシ。
自分から色目を使ったわけではないが、その気になった事実に変わりはないのだ。
『………はぁ…サソリ……』
だがアタシがため息とともに吐き出したのは、やはりあの時もらした名と同じ。
あのときの出来事は、アタシの意識を確実に変えた。
―『……ごめん…ごめんサソリッ………!』―
―『あ゙っあぁ…サソリ…サソリぃ……!』―
……何故、あの時の自分はあんなにもサソリに罪悪感を覚えたのだろう。
―「……お前は他人じゃ、ねぇだろ。」―
―『他人だよ!!何さ!!散々カッコつけちゃって!!』―
サソリとは口喧嘩もした。
―「お前のすべてが信用できない。」―
―『っ!!』―
その顔をはたきもした。
―『…嫌よサソリ……いや、いや、イヤ………』―
突き飛ばしたし、その存在も否定した。
いざサソリを目の前にしたときには、奴に何をしても平気だったのに。
こんなにも離れてようやく、サソリに対して罪悪感を感じているアタシは一体全体何なのか。
―――アタシの中が、サソリに支配されていく。何故かはわからない。
この感情を、アタシは知らない……?
ピンポーン
『ん?あぁ……、』
御中元だ。
アタシがのそりと体を起こせば、判子片手にくたびれた格好のまま玄関に向かう。
ガチャ、
『えーっと、配達ご苦労様で……す…』
「久しぶりだな、name。」
誰、と思ったのもほんのつかの間。
いつかのサスケくんと同じセリフを吐くんだから、そこはほんと兄弟である。
『イタチ、兄さん……?』
「随分薄着だな、風邪を引くぞ。」
『ど、どうしてここに…!?』
「いくら今が夏休みとはいえ、四六時中家にいるとは限らないからな。留守だったらどうしようかとも思ってたんだが、そうでなくて助かった。」
『…………。』
「時間、空いてるか?」
言葉の出ないアタシを前に、イタチ兄さんは至極マイペースだ。
というかアタシは彼のことを“イタチ兄さん”と呼ぶわりに、彼とまともに話をしたことは指で数えるほどしかない。
そうでなくても、お互いが幼少期からの突然の再会……当然、アタシは彼の訪問に戸惑っていた。
だがそんなアタシに気づいているのかいないのか、これまた間髪いれずにサラリ。
「今からデートしよう、name。」
…………へ?
押し売りデートプランナー「さすがに服は着替えてもらわないとな。nameはスカート履かないのか?」
『え、いや、あんまり……って何その紙袋。』
「向こうで買ってきた、お前にやる。上下一式揃えてある、早く着替えてこい。」
『へ…いや、ちょ、』
「心配するな。ちゃんと値札は取ってあるし、一度洗濯もしてある。サイズも問題なさそうだしな、nameは服選びに困らなくていいな。」
『……ほんとマイペースすぎるよイタチ兄さん…。』
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