サソリ長編 | ナノ
29.














彼からの積極的なボディタッチなんて、今までなかったから。完全に油断していた。






『お願いだからサスケくん。避けて、今すぐ。』

「…………。」






アタシが少々棘のある口調で言うが。

サスケくんは依然アタシを下に、ジッとその目を合わせてくる。






『……何か言いたいことがあるなら聞いてあげる。だからせめてこの体勢はやめて、いろいろ勘違いしちゃうでしょ。』

「……勘違い、すれば?」

『はい……?』






今日のサスケくんはどうしたというのだろう。

いつも見る制服姿じゃないせいもあり、今目の前にいる彼が別人にすら思えてきた。






『もうほんと悪い冗談はよして。相手がサスケくんだから見逃してあげてるけど、もしこれが赤の他人ならグーパンじゃ済まされないわよ。』

「あの赤い髪の男でもか?」

『は……?』

「いや……じゃあそんなに言うようなら避けるよ。ただし姉さんが、」






何だかうまくはぐらかされた気がするが、今はそんなことどうでもいい。

アタシは早く解放されたくて次の言葉を待つが、途端に絶句した。






「姉さんがオレのこと、呼び捨てにしてくれたら。」

『……え…、』

「そしたら、避ける。」






……あぁ、悪い夢なら覚めてくれ。

今の彼は、監獄から出たばかりの囚人より威圧的だ。






『……っそんな、』

「悪い、姉さん。だけど今だけ、たったの一回でいいから。」






すると途端にいつものサスケくんが顔を出し……今度は反省の色を露にしながらも懇願した。

一体どこでそんな飴と鞭の使い方を教わったんだろう。






(そんな風に言われたら、どうあったってアタシが折れるしかないじゃないか……。)






ついに仕方なしと思い、アタシは拗ねたようにポツリと言った。

もちろん目なんて合わせられる筈もない。






『…………サスケ……。』

「……もう一回、」






ちょ!何か注文増えてないかサスケくん!

これはあれだ、「ちょっとそこまで」と言いながら結局最後まで連れていかれちゃうパターンだ。






『いや、ほんとこれ以上は、』

「姉さん……」






すると駄々をこねた子どものようだったサスケくんが、途端にアタシを遮った。






スッ……

『っ!!』






不自然なくらいに体が震えた。

何故なら彼の手が、何の抵抗もなくアタシの頬に触れたから。



そのまま彼の親指が、滑るようにアタシの唇をなぞる。






「ほら、言って。」

『…………!!』






微笑―――だがそんなゆったりとした口調に反して、急かすように一度ベッドを揺らす彼。

その意地悪な視線に穴が空くほど見つめられれば、周りが異様な空気に包まれていくのがわかる。






(あぁ、駄目だ、駄目なのに………、)






本能が、そう告げていた。

だが目を逸らしたいのに、アタシの視線は彼に釘付けだった。






―――くすみ一つない胸元を上がれば、浮き上がる鎖骨、喉仏。

―――きめ細かな肌には、形のよい鼻、唇……そうしてあまりにも妖しげにアタシを捉えるその、視線。



頭がくらくらした。風邪の症状にも似たそれは、確実にアタシの体を蝕んでいく。






―「オレはいつだって、姉さんにとっての“雄”でいようとしてたんだ。」―






わからない……なぜ自分が今こんな気持ちになっているのか。



でも、そう。きっとこのときばかりは、彼の中の“雄”を認めずにはいられなくて。
























―――アタシは、人生最大にしてはじめての赤面をもよおした。






『っ……サスケェ…!!!』






甲高い声とともに吐き出されたそれは、自分でも信じられないくらい別人のもの。



だが途端、今度は彼の顔から表情が消えた。






『…………サスケ、くん……?』

「…………。」






ようやく顔の熱が引き、恐る恐る視線を合わせる。

が、彼はアタシを見ているようで見ていない、なんとも言えない感じだった。



……まぁでも、ようやく気が張れたのだろうと、アタシは若干の倦怠感に苛まれながらも上体を起こそうとした。






―――が、次には妙な圧迫感。






『……っ!んふっ、はぁ…え……』






思わず変な声が出てしまった。

圧迫感による息継ぎと、動揺が入り混じった声。






なんと、一瞬にして彼の体がアタシの上に密着したのだ。



そうして感じる尋常じゃないくらいに高い彼の体温。

それを力任せに何度も押し付けられる。






『ッ!ちょっと待ってサスケくん!』

「……あぁ…姉さん………っ、」






今まで聞いたことのないような色っぽい声で、アタシを呼ぶサスケくん。

……ヤバい、これは相当にヤバい。






『お、落ち着こうサスケくん、今のなし!アタシが悪かった!だから……ひゃあっ!!』






アタシは何とか彼の肩をつかみ抵抗を見せるが、途端に体全体が跳ねあがってベッドを揺らした。



……あろうことか、彼はアタシの首筋を舐めたのだ。






「……姉さんの、味………」

『……味…!?』






そう切り出した彼は、もう止まらなかった。






「姉さんの声、姉さんの匂い、姉さんの髪、姉さんの肌、姉さん…姉さんっ……あぁ…!」






そううわ言のように呟けば、確かめるようにそれぞれの言葉の箇所を乱暴に掻き抱くサスケくん。



そうして最後に浴びるのは、彼からのとろけるような熱視線。
























「……name………、」






サスケくんからはじめて呼び捨てにされた今、このとき。



アタシは彼の中で、何かが崩壊したのだと思った。
























それは、理性崩壊の音

そこにあるのは、なまめかしい肢体が一対。


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