26.
サソリが学校に、来なくなった。
「……であるからして、この問題を…name、やってみろ。」
『……聞いてませんでした。』
「はぁ?お前この前も同じこと言ってなかったか?そんなに先生の授業はつまらんか?」
『いえ、その……、』
「しっかりしてくれよまったく……お前らも、もうすぐ夏休みだからって気ぃ緩んでんじゃないだろうな?」
……あ、そうか。もうすぐ夏休み。
その言葉に気づかされて、アタシは窓の外の入道雲を見た。
また今年も宿題出されるんだろうとか、読書感想文何にしようとか思うことは多かれど。
「ったく、このクラスでも早くも一人夏休みな奴がいるようだけどなぁ。お前らも、いくら成績が良かろうが、ずる休みしたり派手な髪色したりしていいってことにはならないんだからな!」
暗にサソリのことを悪く言う先生。
まぁ教師側からしたら、奴の存在は面白くはないよね。
―「何モタモタしてんだ。帰んぞ。」―
―『……あ、うん………。』―
そう……このままサソリが欠席し続けたら、そのまま夏休みに突入して。
少なくともまた一ヶ月は、サソリと会わなくなるんだ。
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「姉さん。」
不意に呼ばれハッと顔を向ければ、そこには彼、サスケくん。
あぁもう……まただよ、また。
「どうしたんだよ姉さん、さっきから後ろを振り返ってばっかりで。」
『はは、何でもないよ……。』
とうとうサソリはあの後、一度も学校に来なかった。
そうして迎えた前期最後の日、その帰り道。
カラ笑いするアタシを不審がって、眉を寄せるその姿。
『それより、明日からいよいよ夏休みだね。長期合宿、だっけ?』
「あぁ……姉さんには悪いな。せっかくの夏休みなのに、一緒に居てやれなくて。」
『いいのいいの、そんな毎回サスケくんが気に病むことはないってば。今日一日だけでも、アタシの家でゆっくりしてって。』
そう、アタシはこの日、サスケくんを家に招待したのだ。
彼がアタシの家に招かれるのは、小学校のとき以来。
『実はまだ母さんにも言ってないんだよね、サスケくんがこっちに戻ってきてること。もちろん今アタシがサスケくんと付き合ってることも。』
「…………。」
『まだ帰ってくるまでに時間があるけどさ。どんな顔するかなぁ母さん、きっとびっくりするよね!まさかあのご近所さんだったサスケくんが今―――』
―――びくりっ
『っ!!』
不意に悪寒が走って、アタシはまた咄嗟に後ろを振り返る。
……だがもちろん、ここ数日アタシを悩ませていたあの視線はもうない。
(……何ビクビクしてんだろ、アタシ。アタシは別に悪いことなんて一つも、)
―『…嫌よサソリ……いや、いや、イヤ………』―
……一つもないとは、さすがにもう言えないか。
それを証拠に、サソリがいないとわかっていながらも、未だにアタシは背後を気にしている。
あの視姦にも似た目に相当やられているらしかった。
ぎゅっ……
「!!」
それを思えば、アタシの手は自然と彼の手を掴んでいた。
すると大袈裟なくらい、サスケくんの肩が跳ねる。思えばアタシのほうから、彼に触れたことはなかったから。
『あ……ごめん。びっくりさせちゃったね。』
「い、いや……けどやっぱり姉さん、何か変、」
『何でもないよ。』
そう素早く彼の言葉を遮れば、その視線から逃れるように一度足元に視線を落とす。
『……うん、何でもない………。』
―――大丈夫。アタシには、サスケくんがいる。
そう実感することで、自分がサソリより優位だと思えた。
だから視界に映らない幼馴染みにすらそれを見せつけるように、アタシは颯爽と彼の手を引いて歩き始めた。
裸の王様、行進そもそも、何故アタシは強がっているの?
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