恋は思案の外 | ナノ

02


 「・・ここにいたのか」

 慌ててボーダー基地内を探し回れば、休憩所のソファに座り込む背中を見つけ、唐沢は安堵しつつ近づく。

 「・・来ないで」

 あえて聞こえないふりをして唐沢は自動販売機に小銭を入れる。

 「・・どうぞ」

 「もので釣るとか・・子供扱いしないで」

 温かいミルクティーを差し出せば、鼻をすすって悪態をつきながらも西条キリは受け取る。
 どうもこの人物は苦手だ。どう扱えば正解なのか分からない。唐沢は自身にもコーヒーを買ってソファに腰かける。ーー少し距離を開けて。

 「・・どうせ、お父さんも私がいなくて、せいせいしてるんだわ・・邪魔な私がいなくて」

 「・・親をそういう風にいうんじゃない」

 「・・知った風な口きかないで、お母さんがいなくなったあの日、言ったのよ・・お前のせいだって。分かってるの、ここから出て行っても・・」

 先ほどより幾分幼く見えるその背中が、震えだす。そして、小さな声で吐露した。

 「・・もう・・どこにも帰る場所なんてないんだわ・・」

 小刻みに震えるその小さく震えるその背中がとても弱弱しく見える。

 (・・まぁ、ここで放り出したら資金の話もなくなるしな・・)

 滅多に帰らない自身のマンションの部屋を思い出しつつ、胸元のポケットをまさぐる。

 「・・書斎なら使っていない。カギを付けるなりなんなりしてくれ」

 「は・・? なにこれ・・?」

 「なにって、私の家のカギだが」

 目の前にさしだされたカギに、西条キリはポカンとした。

 「・・ボーダーの保護下に置きやすい場所にある部屋が見つかるまで自由に使ってくれ。どうせ、私はあまり家に帰らないからね」

 見開かれた黒い瞳が、再び涙であふれて光る。ーーどうしてか、その時その瞳はとても美しく見えた。

 「それとも、基地内に寝袋でも敷いて暮らすか・・どうします?」

 「・・資金が欲しいんでしょ、住んであげる」

 ーーまた捻くれたことを。

 そう内心呆れつつ、唐沢は笑みをこぼした。


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