02
「・・と、いうわけでして。彼女はボーダー関係者ですが、隊員ではありません。クラスは・・言わなくても分かっていますよね?」
改めて、唐沢と校長のやり取りを聞いているといつもの彼の仕事ぶりが伺える気がする。口調や物腰はやんわりとしているが、毅然とした態度で相手に条件をのませる。
(ちょっとはやるじゃない)
そうキリが何気なく彼の横顔を見つめていれば、ふいに目が合う。キリは慌ててぱっと視線を逸らした。
「・・あとそれと・・彼女、案外繊細なので気にしてやってください」
「・・は?」
唐沢のその一言に、キリは思わず彼に食って掛かる。
「ちょっと! なに余計なこと言ってるのバ唐沢!」
「ばからさわって・・おい西条!」
ボーダー上層部の人間になんてことを、と校長はキリに叱咤する。対する唐沢はクスクス笑って校長を制止する。
「いいんですよ、もう慣れましてね・・では、お願いします。私はこの後仕事を控えているので・・」
「ちょっと、聞いてるの!?」
説明するだけして、愉快そうに笑ったまま唐沢はその場を後にしようとする。キリは唐沢が閉じようとした校長室の扉を止めた。
「友達作りまでは協力しませんよ、自分で頑張ってください」
「〜・・っ! あんたなんかに言われなくたってできるっての!!」
そう言ってまた、いつもの余裕な顔をするのだからキリは真っ赤になって止めていた扉を今度は荒々しく閉めた。
「あれ? あれ唐沢さんじゃん」
紙パックのジュースを飲んでいた隣の米屋は、校門へと通じる中庭を見ながらふと、つぶやく。
「はぁ? なんでこの高校に? まぁ、ボーダーとの連携校だけど」
それよりも、と出水は窓枠に寄りかかりながら溜息を吐く。
「今日は一時限目から古典だぜ、ぜってー寝る。つくづく思うんだけど、なんであの先生の授業は眠くなんだよ」
そうごちる出水に、米屋は笑って空になったパックをゴミ箱に向かって投げた。
「なんかすっげーこと起こったら起きてられそうだけどなー」
「そうそう起こらないからすごい事なんだろ」
「そりゃそうだ」
諦め気にそう呟くと同時に、授業ーーもとい睡眠時間の開始のベルが鳴る。
ーーしかし、そのすごい事は起きたのである。
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