天使の羽は何故白いのか

天使の羽は白だって、相場が決まってるだろ?
でも俺は別に何色でもいいと思うんだ。
なんてーの?個性?
天使に個性があるかとかは知らないけどさ。
現に今、俺の目の前にいる天使は鴉のように黒い翼をもつ天使だ。
七分袖のシャツの背中を裂いて、ばさりと夜を切る翼。
素足が踏むのは鉄筋コンクリートから痛々しく突き出た鉄パイプ。
カッコ良く思っていた天使の印象とは掛け離れており、目の前の彼は薄く彩られた今にも壊れそうな飴細工のように思えた。
虚ろな目をして、頼りない足場をふらふらと歩いている。
「おーい、そこ、危ないんじゃねぇ?」
危なっかしいのが堪らなくなり、俺はつい声をかけた。
しかし彼の耳には届かなかったらしい。
月光に照らされた黒翼は濡れたように輝いている。
ふいに、彼の姿勢がぐらりと傾く。
ちょっと!?と口をつくが早いか、俺は彼の落下地点へ走った。

ばさり、

黒い羽根が降り注ぐ。
彼は全身の力を緩め、それだけみるとただ落ちていくように思える。
代わりに、その黒い翼だけが豪と風を震わせた。
金色の月が、漆黒の翼を飲み込む。

「かっ、」
かっけぇ…!
僅かに紅潮させた頬に笑みを浮かべながら、彼を追って勢い良く走りだした。


いつのまに俺の背中を突き破って、純白の悪魔の翼が生えているとも知らずに。






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