死にたがりと生きたがり

君は今、どうして僕が泣いているのかわからないだとかを考えているんだろう?
まあ確かに、本を読んで泣く性分ではないけれどね。
…なんだよ、他人のことをとやかく聞いてどうするって言うんだ?
… … … …。
…簡単に言うと、悲しかったのさ。
僕には「幸せな家族」というものが理解できない。
なのにこの本は、そういうことをテーマにして、その美しさを語ってくるんだ。
つまり…羨ましかった。
わからないだろう?
君は実に幸せな人間なんだろうからね。


それきり彼は口を閉ざした。
瞳はもう俺を見ていなかったが、本の文字を追っているわけでもない。
ただただ、何処かに想いを馳せて空気中のプリズムを捉えていた。


わからないだろう、生きるためにどんなことでもすると決めた僕の気持ちなんて。


随分前に、嘲るような声で言っていた。
一体こいつは今まで何をしてきたというのだろうか。
ーーそうまでして、生きたかったのだろうか。
そんなことを聞けば、きっと彼は瞳の奥を冷たく光らせ、俺をぶん殴ってから二度と口を聞いてくれないだろう。
木漏れ日が落とす影が、さざめく風に溶けていった。






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