03 昼前の邂逅





「お目通り叶い、恐悦至極」


夜空の様な色合いのヴェールを纏った女は、凛とよく通る声で会釈した


「構わん、顔を上げろ」


おれがそう言うと、女はゆっくりを顔を上げる
伏せられた長い睫毛が開き、その双眸におれが映った
太陽に焼かれる国だと言うのに、その女の肌はまるで白絹のようだった

「………名は?」

意図せずして、おれは女に名を訪ねていた
どうせ次の朝には殺すと、今まで女の名など聞いてはこなかったのだが

「ナーシャと申します」
「…そうか、まァ…どうでもいい事だ」

おれは立ち上がり、女に背を向けた

「夜に、おれの部屋に来い」

日はまだ高く、宮殿の真上を照らしている
傍らの兵に、女の部屋を手配させ、おれは早々に謁見の間を後にした


===


「この部屋にある物は好きに使え。だが逃げる事は許さんぞ」

あたしに与えられたのは、愛らしくきらびやかな調度品の揃った宮殿の一室
乱雑に放られたままのドレスを手に取る
僅かに香る香水、誰かが一度身に着けたもののようだ

「あ、あの、これって…」
「……かつての女たちが残したものだ。もう誰も使わない」

言葉少なく答えてくれた兵士さんは、部屋を後に…したわけではなく
あたしが隙を見て逃げないかと、ドアの前に居座る様だ
室内には小窓が一つ。日は差すが、とても人間が通れそうな隙間じゃない
つまりここの出入口は、今塞がれたドア、たった一つ


(………上等!逃げやしないっての)


あたしはベッドに腰掛け、改めて決意を抱いた
今しがた謁見した国王、ホーキンス
王の存在は知っていたものの、こうして本人を目の当たりにしたのは初めてだ
というより、王があまりにも外に出てこなさすぎる。彼の病的にまで白い肌を見て思った
この国は催し物が少ない。もし何か国を挙げての祭りなどがあっても、民衆の前に姿を現すのは大臣くらいで、王の姿を直々に見かける機会など、なかった

緩やかに靡く、長い金糸
気怠さを纏った、暗い赤の瞳
すらりと通った鼻筋に、薄い唇

ほんの少しの謁見ではあったが、とてもきれいな人だと思った

……けれど、そのほんの少しの邂逅であれど、彼が秘める闇を感じ取るには十分過ぎた


彼の過去に、何があったのだろうか
父さん、母さん…あなた達から授かった数々の物語は
はたして彼の心を、救うだろうか





mae ato