スクライング

「敵との邂逅率……38%」


今日も今日とて、船長は日課の占いを欠かさない
甲板に椅子を出し、船長は自分の能力を使って、細い藁に次々とタロットカードを貼り付けていく
ホーキンス海賊団の一員として暫く経つが、船長の占いが大ハズレした事は一度も無い。同業者…と名乗るのも中々恐縮ではあるけれど、船長の占いの腕は本当に尊敬する
あたしはついぼおっと、眼差しを向け続けてしまった

「……あまり凝視されるのは好まないんだが」

船長の朱殷色の瞳が、カードから傍らで腑抜け面をしたあたしに向けられる

「ご、ごめんなさい、つい…」
「何だ。何か占ってほしいのか」
「イヤイヤ、違くて…!ほら、あたしも一応占い師やってたから、船長の占いすごいなーって…つい…見ちゃったん、です…」

船長の集中を途切れさせてしまっただろうかと申し訳なくなり、言葉を連ねるにつれ徐々に声が小さくなる

「…そうか、そういえば…お前も占いが出来るんだったな」

丁度いい、おれを占ってみてくれ
続けて向けられた言葉は、あたしを責めるものではなく、意外なものだった
船長はカードをしまい、あたしの方へ向きを変え座り直した

「エッ!?いやでも、船長ほどじゃあないですよ…!?」
「構わない。それに…実際やってみないとわからないだろう」

ほ、本当にいいのかな…
あたしが占い師を名乗り出したのも、単純にあたしの傍に水晶玉があったからであって、あたしがやる占いだってなんとなく…思い付いたことを適当に述べているだけ。船長みたいに確かな確率が出たりするわけでもなし…
等と脳内で弁じてはみるが、船長は不動。あたしが占うのを黙して待っている。やるしかねぇ

「じゃあ、失礼して…」

そういえば船に乗ってから占いなんてしてなかったなぁ…と、相棒を掲げて水晶越しに船長の顔を見る

「ンンンンン……!!」

力を込め、指をうねうねと蠢かせると…水晶玉ちゃんに何かが…!映って見える気がする…!!
相棒越しに与えられたビジョンは…


『ナーシャ…』
『船長…』

熱の籠った瞳で見つめ合うあたしとホーキンス船長
するり、と彼があたしの頬を撫でる
二人の距離が徐々に縮まって行き

そして────…



「のわあぁぁぁっ!!?」

これ以上視続けるのは耐えられない!
なんてモン視せてくれたんじゃ!!とあたしは相棒を海に向かい全力投球
突然の奇声、突然の奇行、大人しくあたしの結果を待っていた船長も驚いたようで、美しい金髪がぶわりと僅かに逆立って見えた

「どうした、何が視えた」
「エェッ!!?」

船長はあたしの気もつゆ知らず結果を催促する
あたしと船長のフォーリンラブなシーンです(はぁと)
いや、いや、いやいやいや!言えるかそんなもの!!
言葉に詰まってると船長は立ち上がりあたしの顔をじっと見据える

白い肌、綺麗な瞳、薄い唇
───あのくちびるに、キス、されて


「おわあああぁぁぁっ!!!」

もう色んなものに耐えきれず、あたしは逃亡した



───

「ナーシャ、答えろ。何が視えたんだ」
「ひいぃ…勘弁してくださぁぁい…」

占いの力を信じている船長が、あたしをそうそう逃してくれる訳も無く

「エ〜〜〜ン、ホント、何でもないですから〜!!」
「お前一人で判断出来るものなのか?分からないだろう、さぁ言ってみろ」
「なにも!!なかった!!!」

勿論あたしの占いは、船長みたいに100%当たるわけではない
精々7、8割…いややっぱり6、7割といっておこう
というか、なんであたしと船長が!そういう関係に…
あたしの脳内は暫く騒がしくなりそうだ
そして船長は一体いつ結果を諦めてくれるのか!

「だーかーらー!船に悪い事が起こる訳じゃないですー!!」
「もっと具体的に教えてくれないか」
「いーーーーやーーーーー!!」

逃げ込んだ先の自室には
磯の香りを纏わせた相棒が恨みがましく浮いていた




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -