ラッキーアイテム 乙女の血

戦慄した。
今日は船の当番が何一つない私は、のんきに自室のベッドに転がりながら本を読んでいた
すると、控えめなノックが。本に向ける視線はそのままで「どうぞー」なんて気返事を返した
部屋に入ってきたのは、我らがホーキンス船長
目を向けるとその手中には、鈍く光る、儀式用の銀の短剣

「ヒエッ…」
「おちつけ……」

いや船長、そんな短剣持ちながらじりじり近付かれる状況でそのように言われましても無理な話です。しかし船長はそんな私を意に介せずまた一歩近づく
船長が此方へ距離を詰めるたび、ベッドの上で後ろに後ろに下がる、が、無慈悲にも、いよいよ背面には壁。もうだめだ

「せ、せ、船長!せめて説明を!!」
「…そうか、そうだな。すまない…」

どうやら私の言葉が通じる程度には、まだ理性が残っているらしい。魔術やら占いやらのことになると何をしだすかわからないからなこの人


「とある薬が入り用になってな…材料に女の血が必要なんだ…」

じ、とその赤みがかった瞳に見つめられる
確かにこの船には、女の船員は私しかいない
とはいえ、いくら船長命令とはいえ、いくら意中の相手の願いとはいえ!

「さすがにこわいです……」

非常に情けない声が出た。注射を怖がる子供のような…いや、注射の方が何倍もマシだ。こちとら謎の儀式の為に短剣を向けられているんだぞ
少ししたのち「……だろうな」と答えた船長。なんでどことなくガッカリしてるんですか船長。

「次停まる島でだれか見つけるとか…」
「いや、お前でなくては駄目だ」
「ナンデ!!?」

間髪入れずに淡々と却下する船長には恐怖しか感じない

「てか!そんなに必要な薬ってなんなんですか!」
「惚れ薬だ」
「あぁ惚れ薬なるほどー…」



って、ん?まてよ


「惚れ薬…?」
「惚れ薬」

馬鹿みたいにオウム返しを繰り返す。律儀に返してくれる船長、普段なら愛おしく思えるのだが短剣が邪魔をする
というか、惚れ薬、という単語が彼の口から出たこと自体今年一番の驚きだというのに
というか!惚れ薬なんて、いったい、だれに
必死に混乱した脳を回転させる私は気にも留めず
ぎしり。ホーキンス船長の片膝が私のベッドに乗った

「必要なんだ…好いた相手の生き血が」

ぎしり。また一歩此方へ。後ろには壁しか無く、逃げ場はない
船長の片膝が私の両足に入った。いよいよもって、動きも封じられた

「痛みを感じさせないよう努力する。ナーシャ…許せ」

空いている左手は、私の顔の横へ。ホーキンス船長の端正な顔がゆっくり近づく


ぎゃぐえんどorすいーとえんど


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