タピる

(学パロ)



「なぁナーシャ!海猫茶屋のタピオカがな!今!増量中なんだってよ!!」

片手に同じ内容が書かれたチラシをブンブンと振り回すボニー。既にチラシはクシャクシャだ
ホームルームが終わり、私の机に一直線に駆け込んできた友人は、どうやら同じクラスのキラー君にチラシを貰った様だ。

「いいねぇ、タピりますか」
「おう!タピろうぜ!」

何味にするかなぁ、こないだはマンゴーだったか?ボニーは目を輝かせて語る
ふふん、いいねぇこういうの。いかにも今を生きる華の女子高生らしいではないか
彼女の呟きと共に私の気持ちも上昇する

「おれも行こう」

地の底から響くようなド低い声により、その華が凍りついた
振り返ると其処には、タピるという言葉のタの字も似合わないような

「ホ、ホーキンスくん…?」
「なんだ、珍しいなァホーキンス」

状況が読み込めない私を意に介せず、彼は続ける

「今日のおれのラッキーアイテムがタピオカなんだ…。本来ならば、通学前に寄って行こうとしたんだが、既に列が出来ていてな…。始業に間に合いそうも無かったから諦めた」

不覚。そう呟く彼は至って真面目そうだ
とはいえ彼の説明は見事腑に落ちた。占いの為とあらば当然の行動だろう

「じゃあ…いっしょに行こっか」
「すまないな。よろしく頼む」

じゃあ行こうぜ、ボニーが私の腕を引き、三人で昇降口に向かった
ローファーを履きホーキンス君と落ち合う、が…

「…あれ、ボニーは?」
「……遅いな」

なかなか来ない
下校時間ともあり、生徒の数は中々に多いものの、まさか慣れ親しんだ学校で迷子になるだなんてこと、1組のロロノア君でも無い限りないだろうに
すると、軽快な電子音が私のスマホに。メッセージアプリのもので、送り主はまさに探していたボニーだった

『わりぃ、焼肉誘われたからそっち行くわ!』

「えぇ突然!?」
「どうした」
「いや、ボニーが…突然焼肉に誘われたらしくて」
「そうか」

いや、よくもまぁこの靴を履く短時間でそんな奇跡の邂逅をしたものだ
とはいえ、此処で棒立ちしていてもしかたない

「じゃあ…二人になっちゃったけど、とりあえず行きます、か」
「ああ」

なんというか、些か緊張する
女の子同士で学校の帰り道をゆく事は少なくないが、異性と二人きりというのは初めてだ
ましてやクラスでも異質…いや、変わり者であるホーキンス君と、タピオカを摂取しに行くなど一体だれが考えただろうか
彼とは朝の挨拶を交わしたりする程度で、よく知らない。休み時間は机上にタロットを広げている姿が目につく
カードを見る瞳が時には憂い、時には歓びに満ちる横顔は、ほんとうにきれいだ
まるで芸術品のようで…って

…なんでこうも、変に意識してしまうのだろうか

私は悶々と考えている間に、二人の間に会話の花が咲くでも無く、目的地である海猫茶屋に着いた
時間も時間、同世代の子達がちらほら見える。同じ学校の制服の子も見かけた

「あっ、えーと…ホーキンスくん何にする?」
「少し待て…」

どうやら味も占い次第の様で、懐からカードを取り出し一枚めくった

「……おれは抹茶にしよう」
「抹茶かぁ、いいね。じゃあ私はー…」

目についたのはいちごミルク。鮮やかなピンク色がなんとも愛らしい

二人で並び、それぞれ決めたものを頼む
休日なんかは人でごった返す人気のお店だが、平日と言うのもありたいして時間もかからなかった
それとも、運気を上げるために行動する彼が隣にいるからだろうか
ちらり、と横目で彼を見やると、あまり慣れ親しまないものだからか受け取ったカップの底に沈む黒い粒を凝視していた
と、思いきや、その茜色の瞳とかち合ってしまった

「……一口飲むか?」
「えっ!?」

私の返答を聞く前に、彼の手中のカップのストローが此方を向く
まだ口を付けていない、と付け足した彼は、これが、その、関節キスになる事を気にしていないようだ…!
というか、なんとなく見つめていただけなのにずいぶんと卑しい女と思われるのでは!?
ストローの向きは一向に変わらない。いつまでもこのまま固まっているのは、私の心にもよろしくない

「じ、じゃあ、いた、だきます…!」

ちゅう、と一口
感じたのは濃厚な抹茶の味と、とろけるようなミルクの味…の筈だ。本来なら
けれど今、この状況でその味を堪能できるわけも無く。つるりと滑り込んできたタピオカの粒を咀嚼する

「おっ、お、おいしい!すごく!」
「そうか。おれも飲もう」
「えぇっ!?」
「…何だ」
「い、いや、その…口拭かないと!ストローの!」

慌ててバッグからティッシュを引っ張り出そうと探る。今度から制服のポケットに入れておこうと肝に銘じる
もたつく手がようやくつかみ取ったティッシュを差し出す
しかし彼はそれを受け取ろうとするそぶりも見せず、じっ、と此方を見つめるのみ

そして

「……随分と、甘いな。」

彼は、そのまま、抹茶ミルクを堪能したのだ
ぴんとティッシュを差し出したままの姿勢で固まる私を前に、彼の表情が和らいだ

「…本音を言うと、この状況に感謝している。おれは随分と運に恵まれたようだ」

ではまた明日。ふっ、と微笑んだ彼は再びストローを咥え直し自分の帰路に付いた
これは、その、つまり

「…そういうこと、で、いいの…?」



恋愛運の上昇、ラッキーアイテムはタピオカ

―――

「よし、上手くいったようですねホーキンス先輩…!」
「おーかーわーりィー!!!」
「ぎゃああ、今月の!小遣いが!!」

ボニーを誘ったのは、ホーキンスが部長を務める黒魔術研究会の部員
猫目の生徒がその後届いたメッセージアプリの報告にグッ、と握り拳を作り
三つ編みの生徒が軽くなっていく財布に涙する



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