Darlin' | ナノ


誘惑のsteady(1/4)

残暑、と呼ぶにはまだ厳しい暑さが続く夏の終わり



日が沈んだ後も、空調の効いた部屋の中と違って、窓の外は昼の強烈な日差しの名残がようやく和らいできた所だった





***






全国ツアーを終えたばかりのJADEと一緒にゲスト出演した、音楽番組の収録が終わった後



他の皆さんより少し遅れて、秋羅さんと二人で楽屋に戻りながら



「今日のみのりの新曲も、声がよく伸びてたよな」



目を細めて秋羅さんが言うのに



「本当ですか? 嬉しい! 秋羅さんに褒めてもらえるなんて‥」



「何だよ、おおげさだな」



「え? あ‥‥」



ぱっと笑顔になった私の頭を、苦笑した秋羅さんの大きな手があやすように撫でていく



その指先は、やがて私の髪をさらりと弄んで――



「ちょっ、秋羅さ‥‥」



「ん?」



「―――っ」



ほんの短いやり取りにも、私の鼓動がどくん、と大きく脈打つのを感じた






テレビ局の廊下は、いつ誰が通るか分からない



いくら私達が付き合っている事を公表しているといっても、いや、だからこそ「公私混同はするな」と山田さんにも何度も言われているのだ



なのに―――



(こんな不意打ちみたいにされたら、私の心臓だってもたないよ‥‥)



もちろん、恋愛初心者の私が百戦錬磨の秋羅さんに敵う筈もない



「ホント、みのりは素直で可愛いよな」



「もう、秋羅さんの意地悪っ!」



ぐうの音も出なくなった私は、余裕の表情で私の髪に口づける秋羅さんを軽く睨んでからきびすを返す



「みのり? おい、待てよ」



「ふふ‥‥」



すると、ちょっと慌てた声が背後から追いかけてくるのに、私はクスッと笑みをこぼした




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