残念ながらべた惚れ(1/3)
11月も半ばに差し掛かったある日の夜。
明日がオフという事もあって、私は仕事が終わったその足で秋羅さんのマンションにやって来ていた。
私達が付き合い始めてから、もう数ヶ月。
秋羅さんの部屋には、私が突然泊まっても大丈夫なくらいに私の身の回りの物も置かれている。
そしてそれが当たり前になるくらい、私は秋羅さんのマンションでオフを過ごす事が多くなっていた。
だけど。
今夜は、いつもとはちょっとだけ違う。
「‥‥‥‥」
キッチンで夕食後の洗い物をしている私の視線の先。
リビングにいる秋羅さんは今夜はブランデーにすると決めたらしく、慣れた手つきでテーブルにグラスやボトルを並べていく。
その後ろ姿に、私は何度かためらってから声をかける。
「ねえ、秋羅さん」
「ん?」
「あの‥‥今日は私もちょっとだけもらっても、いいかな?」
「え」
ブランデーのラベルを眺めていた秋羅さんが、驚いた顔で私を見る。
(『え』って、そんなに驚かなくても‥‥‥‥まあ、当然の反応なのかな?)
私はもともと、お酒にあまり強い方じゃないし。
秋羅さんといる時でも、いつも食事の時に少し飲むくらいなものだから。
自分から『飲みたい』なんて言うのは、もしかしたら今日が初めてかもしれない。
そして何より、お酒に強い秋羅さんの飲む銘柄はアルコール度数が高い物が多いのだ。
「‥‥‥‥‥」
(‥‥もしかして、ヤケ酒だって思われてるのかな?)
秋羅さんは何だか難しい顔をしてる。
そして、心配そうに眉を潜められてしまった。
「みのり、どうした?もしかして今日の仕事で、何かあったのか?」
(う、結構スルドイ‥‥でも‥)
大股でキッチンにやって来た秋羅さんは、シンクの端に手を着くと腰を屈めて私の顔を覗き込んでくる。
「べ、別に仕事でって訳じゃ‥」
「じゃあ、何?」
「‥‥‥‥っ」
意志の強い、まっすぐな視線が私を射抜く。
「あき、ら‥‥さん」
その視線に耐えられなくなった私がギュッと目をつぶってとぎれとぎれに名前を呼ぶと。
フッと秋羅さんが笑った気配がして。
「意外と強情なんだな」
耳元でそう囁かれるのと同時に、私は彼の力強い腕に抱きすくめられていた。
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