残念ながらべた惚れ(2/3)
「え、ちょっ‥‥秋羅さん?」
突然の抱擁に、私の頭の中は真っ白になってしまう。
だけど私は洗い物の途中で、手に洗剤が付いたままだったから身動きが取れなくて。
それでも何とか動こうとする私に、秋羅さんがもう一度囁く。
「みのりが正直に言わないからだろ?」
「それ、は‥‥っ!」
ゾクリ、と寒気にも似た感覚が私の背筋を走り抜ける。
彼が私の髪をそっと掻き上げて。
唇が、私のうなじに触れた。
「っ!?」
そして、最初は軽く触れるだけだったその唇は少しずつ熱く激しくなってきて。
「あっ‥‥や‥‥んんっ‥‥!」
「みのり‥‥」
チュッ。
「‥やっ‥‥あぁ‥‥」
わざと音を立てて肌を吸われて、私の中で羞恥心が煽られる。
「みのり、可愛いすぎ」
「やだっ‥‥そ、こで‥‥しゃ‥べらな‥い‥っ」
「ん、何か言ったか?」
「〜〜〜っ!」
そうして身動き出来ない私の首筋ににいくつかの花を咲かせてから、秋羅さんはようやく私を解放してくれたのだった。
「みのりは本当に隠し事が出来ないタイプだよな」
「そん、な事‥‥ないもん」
乱れた呼吸のまま反論してみたけれど。
体からすっかり力が抜けてしまっていた私は、今度は自分から秋羅さんの胸に頭を擦り寄せたのだった。
その後、リビングに移動した私達は、ソファに座ってブランデーのグラスを傾けていた。
もちろん飲んでいるのは秋羅さんだけで、私はちょっと舐めてみただけですぐに降参してしまったけれど。
「どうせまた俺の事でマネージャーに何か言われたんだろ?」
(うう‥‥)
‥‥‥‥やっぱり、私って分かりやすいのかな?
それとも秋羅さんが気が付き過ぎるの?
「ま、両方とも正解だろうな」
むう。
そう言って楽しそうに笑う秋羅さんを軽く睨む真似をしたら、今度は唇にキスを落とされた。
『お前と井上秋羅が釣りあってるとは思えないんだがな』
山田さんがただ意地悪であんな事を言ったんじゃないって、私だって本心ではちゃんと分かってる。
だけど、だからこそ。
誰にも何にも言われないくらいに、秋羅さんに釣り合う女性になりたくて。
それなのに。
「別に俺は今のままのみのりでいいと思うけど」
「え?」
グラスをテーブルに置いた秋羅さんが、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「そう、今のまま‥‥だってみのりを独占するのは俺だけの特権だろ?」
「秋羅さん‥‥」
やがて。
触れ合う唇から、私に触れる彼の手から伝わってくる『想い』で私の中が満たされた時。
私の瞳から幸せな涙が一筋、流れた。
→あとがき
.
[←] [→] [back to top]
|