Precious・後編(1/5)
〜夏輝SIDE〜
壁のアナログ時計の針は既に夜10時をまわっている
いつも俺とミィしかいないリビングは、今夜は少しだけ様子が違っていた
二人と一匹で賑やかに夕食を楽しんだ後
リビングに移動した俺とみのりちゃんは、会えなかった時間を埋めるみたいに繋いだ手を絡めたりじゃれあったりしながら、他愛ない会話を交わしてはくすくすと笑い合った
テーブルに置かれたマグカップからは、みのりちゃんがいれてくれたコーヒーの香ばしい香りが広がっていて
「それにしても、みのりちゃん、コーヒーいれるのホントに上手くなったよね」
「そんな‥‥夏輝さんの教え方が良かったからですよ」
―――と、秋羅や冬馬が聞いたら呆れ半分でからかわれそうなやり取りも、もう片手じゃ足りないくらい交わしている
そんな俺達に気を使ったのか、単にお腹いっぱいになって満足したのかは分からないけど
あんなに騒いでいたミィも、今はお気に入りのハンドタオルを枕に目を閉じて丸くなっていた
ゆったりと流れる、幸せな時間
そんな中―――
「「あ‥‥」」
ふっ、と会話が途切れて俺が顔を上げると
まさに同じタイミングでこちらを向いたみのりちゃんと目が合って
「あ、あの‥‥」
頭で考えるより先に体が動いていた
澄んだ瞳が恥ずかしそうに伏せられるのを、追い掛けるみたいにして顔を近付ける
そのままみのりちゃんの体をソファの背もたれに押し付ける格好になって、慌てたみのりちゃんは視線をさ迷わせた
「夏輝さん? コーヒーがまだ‥‥」
「大丈夫、今度は俺がいれてあげるよ‥‥だから今は俺を見て?」
「――――っ」
みるみるうちに頬を赤くしたみのりちゃんが
「‥‥夏輝さんのイジワル」
と呟くのに、無意識に口許が綻んだ
.
[←] [→] [back to top]
|