囁きで触れて、甘く愛して(1/3)
打ち上げ会場に戻る前に、私は山田さんにもらった花束をクロークに預けた。
そのまま一人で会場へと向かう。
(抜け出した事、山田さんにばれてませんように‥‥)
まるで、今の私は「いたずらしたのが見つかりませんように」とドキドキしている子供みたいだ。
「あ‥‥」
何となく早足になってしまっている自分に気がついて、思わず頬が熱くなる。
(夏輝さん‥‥)
「二人で会場に戻るのはさすがにマズイだろうから、ね?」
さっきまで一緒にいた夏輝さんは、おどけた口調でそう言ってポケットからタバコの箱をのぞかせた。
けれど。
もう一度、私を見た夏輝さんの目は真剣なものに変わっていた。
(夏輝さん?)
穏やかな、けれどどこまでも真っすぐな彼の視線。
私の体は、まるで雷に打たれたみたいに固まってしまう。
時間にしたら、きっとほんの数秒。
それでも、私達がお互いの想いを確かめ合うには充分過ぎる時間だった。
「みのりちゃん」
「あ‥‥」
はい、と返事をしようと思ったのに、私の口は思う様に動かなくて。
そんな私の頬を夏輝さんの両手が優しく包み込む。
「みのりちゃん。俺、今日は自分の車で来てるから‥‥一緒に帰れる?」
質問というより確認するような口調に、私の頬が熱くなる。
きっともう夏輝さんにも、伝わってしまっている。
だってほら。
私の頬を包む手がいっそう優しくなって。
甘い吐息が、私の唇を掠める。
「電話して? 待ってるから」
今にも唇が触れ合いそうなくらい近くで見つめ合う。
「‥‥はい」
夏輝さんの視線の先で、私はそっと目を閉じた。
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