囁きで触れて、甘く愛して(2/3)
「本当に送らなくていいのか?」
打ち上げはまだまだ盛況だったけれど。
私の心の中は、先程の夏輝さんとの約束でいっぱいで。
山田さんを探して「そろそろ帰ります」と言うと、体調でも悪いのかと逆に心配されてしまった。
「う‥‥」
山田さんの眼鏡の奥、黒い瞳がスッと細められる。
鋭い眼光で見つめられて、私はまるで心の中まで見透かされたような気分になった。
(うっ。やっぱりダメ、かな?)
けれど。
ドキドキしながら上目遣いで見上げた先で、山田さんは肩を上下させて深いため息をついた。
「みのり」
「は、はいっ!」
思わず声が裏返ってしまった私を、山田さんはなおもジッと見つめてくる。
「お前ならまず間違いはないと思うが、くれぐれも自分が未成年だという事を忘れるなよ」
(うわ、見抜かれてるっ!)
「返事は」
山田さんの眼鏡が、いつもの二割増しでキラリと光った。
「っはい!! ありがとうございます‥‥それじゃ、これで失礼します!」
「ああ」
その時。
山田さんのお許しが出たのが嬉しくて、すぐに会場の出入口に向かって踵を反した私は気づかなかった。
「‥‥‥‥‥‥」
山田さんは、遠ざかって行く私の事をジッと見つめていた。
眼鏡の奥の目はどこまでも優しくて、そして。
‥‥‥‥‥どこまでも、切なかった。
〈お題拝借:Rose tea〉
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