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その鼓動でさえも愛しくて(1/3)

JADEの全国縦断ドームツアーはいよいよ今夜、ファイナルを迎えようとしている





客席の照明が落とされてから急ぎ駆け込んだ客席で



周囲にばれないよういつもより念入りに変装した私は、すっかり一人のファンになりきってステージを見つめていた





「それじゃあ、この調子で最後まで盛り上がっていこうぜ!」



ワアアアア――!



やがてステージも終盤となる頃



夏輝さんの呼びかけに、まばゆいライトに照らされた会場内のテンションも更にヒートアップする



「おいおい、リーダーにばっかりいい格好はさせないぜ?」



そう言って、冬馬さんのドラムが軽やかにカウントを刻み始めるのに



「冬馬、調子に乗ってコケるなよ?」



「そういう秋羅こそ、今日はいつも以上に派手に煽ってくんじゃねーか」



「ふっ、たまには積極的な俺にもエスコートされてみたいだろうと思ってな」



正確に音を刻みながらの軽妙なやり取りに、あちこちで悲鳴に近い叫び声が上がる



「まったくお前らは‥‥」



苦笑する夏輝さんの肩を、先程まで着ていたジャケットを舞台袖に脱ぎ捨ててきた神堂さんがぽん、と叩いた



「本当に、夏輝は気苦労が絶えないな」



「って春もかよ! あーほら、もう次の曲行くぞ!!」



客席から爆笑が沸き起こる中、夏輝さんがちょっとやけくそ気味にMCを進めていく姿に私も思わず笑ってしまう



(ふふ‥‥夏輝さんてば、真っ赤になってる)



そしてツアーファイナル、いよいよ最後の曲のイントロが流れ始めて―――



「あ、この曲‥‥」



巧みな指使いで魅せる秋羅さんのベースと、夏輝さんの繊細かつ大胆なギター



それに重なる、甘く艶めいた神堂さんの歌声が



頭の先から指先まで、私の体をもう一度JADE一色に染めていく



まさに、さすがJADEと言うのに相応しいステージだった



(はあ‥‥やっぱりJADEは凄いなあ)



私だって神堂さんにプロデュースしてもらったり、コラボだって何度も経験しているけれど



「私も、もっともっと頑張らなきゃね」



アーティストとして、もちろん一人の女性としても



だってこれからは―――



無意識のうちに目尻に滲んでいた涙を拭って、私が再び顔を上げた、まさにその瞬間



「え‥‥ええっ!?」



ファンの歓声に応えながらギターを弾いていた夏輝さんの視線が、私の所でぴたりと止まった




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