その鼓動でさえも愛しくて(2/3)
「きゃーっ!!」 「どーしよう、夏輝がこっち見てくれたよ!?」
(‥‥な、夏輝さん?)
周囲の観客達が興奮してざわめき出す中、私はただ夏輝さんを見つめ返す事しか出来ない
(一体どうしたんだろう? でも、夏輝さんも私がこの席にいるって事は知らないはずだし‥‥)
スケジュールを調整して、私がこのライブに来られる事になったのは昨日の深夜、日付が今日に変わってからだったから
事務所経由とは言え、こんな間近になってファイナルのチケットを都合してもらえた事が、そもそも奇跡に近いのだ
それなのに
どうしよう、甘い期待に胸がジンと痺れてくるのを止められない
「あ‥‥‥」
そんな私の頭の中にふと、夏輝さんとの今朝の会話が思い浮かんだ
『今の俺のモチベーションの大部分は間違いなく***ちゃんだし‥‥だから、今夜は覚悟しててね?』
『覚悟、ですか?』
せめてライブに行けるようになった事だけでも伝えようと、留守電を覚悟で掛けた朝一番のモーニングコール
夏輝さんの思いがけない切り返しに、眠気が一気に吹き飛んだ
『だって***ちゃんも終了後の打ち上げ、来てくれるんだよね? ‥‥‥‥もちろん、アフター付きで』
『な‥‥っ!?』
『あれ、違った?』
『もう、知りません!』
『ふふ、照れてる***ちゃんも可愛いね』
『―――っ』
結局、声を立てて笑う夏輝さんに私の膨れっ面も長くは続かなくて
私達はJADEのツアー開始以来久しぶりの、穏やかな時間をひとしきり楽しんだ
そして現在に至るのだが
(だ、だからって、別に期待してるとかそういうんじゃないんだからね!)
ライブの高揚感とは違った意味で高鳴っていく鼓動に、私は思わず胸の前でぎゅっと指を組んだ
左手の薬指には、先日夏輝さんからプロポーズされた時にもらった指輪が嵌まっている
期待だって‥‥‥本当は全くしてない訳じゃない
だってこの指輪をもらった時から、私は夏輝さんのものなんだから
「‥‥‥‥」
やっぱり、まだちょっとだけ照れ臭いけど
あちこちから歓声が飛んでいる、薄暗いライブ会場内ならきっと大丈夫
「―――夏輝さん!」
愛しい人の名前を叫びながら
思い切って、私が指輪の嵌まった左手を大きく掲げると
こちらを見つめていた、彼の金色の髪の奥の瞳が優しく微笑んでくれたような気がした
―END―
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