その温もりに抱かれて(1/3)
ぱちぱち‥‥ぱちぱち‥‥‥
何処か遠くから、何か音が聞こえる
あれは‥‥‥木がはぜる音?
でも、どうして?
頬に触れた風が思いの外冷たくて、私はゆっくり目を開けた
(でも何で風が? あ、そうか‥‥‥)
自分が今何処にいるのかを思い出した、その時
「ちとせ、起きたのか?」
優しい声と大きな腕が、毛布と一緒に私の体をそっと包み込む
「龍!?」
その温もりにハッとして顔を上げると、優しい笑みを浮かべている龍と目が合った
(うわ‥‥)
9月も末になると、吹き抜ける風もだいぶ秋のそれらしくなってきた
それが都心を離れた高原なら尚更だろう
吹き抜ける風に、木々の葉がこすれてザワザワと音を立てていく
夏の全国ツアーが終わった後
久しぶりのまとまったお休みを利用して、私達は龍の知り合いが経営しているという高原のペンションを訪れていた
そのペンションの近くには広大な森があって、キャンプが出来るスペースもあると聞いていたから
私達は、二泊するうちの最初の一泊をキャンプ場にある小さなバンガローで過ごす事にしたのだ
お昼過ぎに到着して、のんびり森を散策した後に初めてのアウトドア料理に思いの外苦戦しながらの夕食を済ませて
二人でバンガローの外で話しているうちに、私はいつの間にかウトウトしてしまったらしい
「も、もう、龍ってば‥‥‥すぐに起こしてくれて良かったのに‥‥」
この旅行を楽しみにしていたのは龍だって同じなのに、私一人だけがこんな風にぐっすり眠り込んでしまうなんて‥‥
恥ずかしくなってうつむいた私の頬に、龍の暖かな手が触れる
「別にちとせが謝る事じゃないだろう?」
「でも‥‥‥んっ」
続くはずだった言葉は、龍の唇に掻き消された
一瞬だけ触れ合ってすぐに離れた唇は、吐息がかかるくらい近くで優しく弧を描く
「気にするな、と言っただろう? 俺がこうしていたかったんだよ‥‥‥それに、ほら」
「え?」
そう言って、龍が空いている右手で斜め上の空を指差すのを一緒に見上げた私は、息を呑んだ
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