陽の当たる場所〜Session.3〜(1/4)
カラカラン‥‥
重厚な造りの木製の扉を開けると、上部に取り付けられたベルが軽やかに揺れた
店内に足を踏み入れた俺は、ゆったりとした歩調で歩きながら周囲を見渡す
(へえ、事務所の近くにこんな店があるなんて今まで知らなかったな‥‥)
今から15分ほど前
事務所を出て間もなく、俺の携帯が鳴った
「時間があったら、今日これから会えないか?」
という晋平の言葉に、昼間どこか様子のおかしかったちとせの姿が頭を過ぎったけれど
(幸い今日は車じゃないし、長居しなければ大丈夫だろう‥‥)
晋平からこんな風に呼び出されるのが久しぶりだった事もあって、俺はその足でこの店にやって来たのだった
***
(しかし、晋平も相変わらずイイ趣味してるよな‥‥)
待ち合わせに指定されたバーは、濃い茶色と黒を基調とした店内にさりげなくグリーンが配置されていて
どちらかと言うと、カップルが愛を語らうというより男が一人で静かにグラスを傾ける‥‥‥そんな隠れ家のような店だった
奥に進んで行くと、左側に5、6人も座れば満席のカウンターがある
「っと、いた‥‥晋平」
その奥まった席に探していた人影を見つけた俺は、立ち止まってその背中に呼び掛けた
「龍? 何だ、早かったな」
何か物思いに沈んでいたらしい晋平は、俺と目が合うと口の端を上げてみせる
それだけで、いつもクールだとか冷たそうだとか言われている印象が好青年のそれに変わるから不思議だ
「迷わず来れたみたいだな‥‥もっと待たされるかと思ってたよ」
足早に近付いていくと、晋平は紫煙を吐き出しながら、茶化すように笑う
「あのなあ、自分から誘っておいてそれはないんじゃないか?」
隣のスツールに腰掛けながら苦笑すると、見計らったようにバーテンダーが俺達の前に立った
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