陽の当たる場所〜Session.1〜(1/4)
9月も半ばを過ぎたある日の午後、俺は一人で事務所を訪れていた
「それじゃ佐藤さん、俺はこれで‥‥」
「ああ、せっかくの練習日やったのに急に呼び出してスマンかったな、龍」
応接室で、今後のスケジュールについての打ち合わせが終わった後
俺は立ち上がって、向かいに座っている佐藤さんに頭を下げる
「かまいませんよ、これもリーダーの仕事ですから」
「さっすが龍やな、そう言ってもらえると助かるわー」
佐藤さんは手に持った書類から顔を上げて、ニカッと笑った
「ほなお疲れさん‥‥‥って、そういや龍は今日はこのまま真っすぐ家に帰るんか?」
その声に、ドアに向かって歩き出していた俺の足が止まる
「そのつもりですけど、何か?」
振り返った俺の視線の先で、佐藤さんはなぜか慌てた様子で手を振った
「あ、いや何でもないっ‥‥ただの世間話、話の流れや! ほれ、明日は待ちに待った久しぶりのオフやし?」
「‥‥ならいいんですが」
「そ、それより‥‥肝心の練習の方はどうなんや? 俺も最近はあんまり顔出し出来てへんけど」
「‥‥‥‥‥」
何か強引に話を逸らされた気がしないでもなかったが、敢えて問いただすほどの事でもないので、素直に答える
「今のところ、特に問題はないですね‥‥‥次の新曲の練習も順調ですし」
「そうか、そりゃ良か」
「ただ、メンバーのテンションも同じ調子で高くなってきてるので‥‥」
「って、何じゃそりゃ!」
満面の笑顔から一転、佐藤さんはガックリうなだれて肩を落とした
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