このぬくもりは嘘じゃない(1/3)
ギイイ‥‥
静寂につつまれていた空間に、鉄の扉を開ける不粋な金属音が響いた。
「ちとせ、ここにいたのか」
続いて聞こえてきたのは、ホッとしたような龍の声。
男の人らしい艶のある低音で、いつも私を優しく包み込んでくれるその声も。
出来るなら、今だけは聞きたくなかったのにな。
テレビ局の、人気のない屋上。
雲が出ているのか、頼りない常夜灯の明かりだけが辺りをボンヤリと照らし出している。
私は、生放送の歌番組が終わってから一人で屋上に上がってきていた。
他のメンバー達には、先に帰ると言ってきたのに。
もたれていた柵から、そっと体を離す。
どうして龍は、私が「ここ」いるって分かったの?
振り向いて、そう聞きたかったけれど‥‥今の私は。
「一人で泣いてたのか」
その言葉と同時に、龍は私の体を後ろからそっと抱きしめた。
「り、龍!」
私はとっさに体をよじって龍の腕から逃げようとしたけれど、龍はさらに腕に力を込めて私を逃がすまいとする。
そして、小さく呟く。
「悪いな、ちとせ」
「え?」
どうして、なんで龍が謝るの?
泣き腫らしてすっかり赤くなった目で龍の顔を見上げると、龍の瞳が切なげに揺れた。
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