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その瞳に映るのは?(1/5)

寒さが段々やわらいできた三月初め、トロイメライは新しいアルバム製作の真っ最中だった。



そんな忙しくも充実したある日の事。



俺が昼の休憩を早めに切り上げてスタジオに戻って来ると、中から誰かの話し声が聞こえてきた。



この声は………ちとせと、矢内さん?



「ところで、ちとせちゃんは最近気になる人でも出来たのかな?」



「え………えぇっ!?」



(は……?)



矢内さんの普段と変わらない穏やかな口調と、ちとせの焦ったような声がして。



気付けば俺は、スタジオの中に入るタイミングをすっかり逃してしまっていた。



今から何気ないふりをして入っていくのは、あまりに気まずい。



それに…………。



ちとせに『気になる相手』?



つまり、好きなヤツがいるって事か?







『好きなヤツ』



頭に浮かんだその言葉をキッカケに、俺の心の中に暗い感情がどんどん積み重なっていくような気がした。



「……や、やだなあ矢内さんってば。突然何言ってるんですか」



「ああ、違ってたならゴメンね」



矢内さんが、苦笑しながら続ける。


「ただ、今回のアルバムのためにちとせちゃんが書いた歌詞の感じとか……あと歌い方とかで何となくそうなのかなって思っただけだから」



歌詞?



ちとせは今回のアルバムに矢内さんの勧めで、詞を二曲書いている。



そのうち一曲はアップテンポで楽しい元気な曲だ。



そしてもう一曲は、叶わない恋に苦しむ女の子の気持ちを歌ったラブバラード。



『叶わない恋?』



「…………」



スタジオの中では、ちとせと矢内さんがまだ話し続けている。



俺は二人に気付かれない様に、そっとその場を離れた。







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