その瞳に映るのは?(2/5)
ちとせと出会ったばかりの頃。
最初は、リーダーとして彼女を気にかけていたつもりだった。
早く他のメンバーに、トロイメライの音になじめる様にと考えていたのは嘘じゃない。
そしてちとせも、そんな俺を信頼して何かと頼ってきてくれて。
視線を感じて振り向くと、彼女の笑顔に行き着く事も度々だった。
けれど、ある日気が付いてしまった。
俺も、彼女をいつも目で追っている事に。
背の中ほどまでの、茶色がかった柔らかそうな髪。
華奢な首筋と、スラリと伸びた手足。
表情豊かな瞳。
そんな、ちとせのすべてがたまらなく愛しくて。
ちとせの隣で、彼女と談笑しているメンバー達にさえ嫉妬した。
『俺が感情のままに動いたら、トロイメライも彼女も、傷付けて壊してしまうかもしれない』
俺の中の理性はそう忠告するけれど。
もうそろそろ、限界なのかもしれない。
屋上で一人タバコをくゆらせていると、ドアの開く音がしてちとせがやって来た。
俺と目が合うと、ホッとした様に優しい笑顔を見せる。
「龍、ここにいたんだ」
「……ああ。何か用か?」
俺はタバコを消すふりをして、ちとせから目をそらした。
昼休みにスタジオで見た、彼女と矢内さんとのやり取りがどうしても頭から離れてくれない。
その後のレコーディングでも、リテイクを繰り返している有様だ。
頭を冷やそうと屋上に上がって来たのだが、俺の側まで来たちとせはなぜか何も言わずに俺をジッと見つめている。
「どうした、何で黙ってるんだ?」
多少、居心地の悪さも感じながら問い掛けると。
「龍だって、何にも言ってくれないじゃない」
ちとせに間髪入れずに切り返された。
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