『カワイイ』なんて言わせない(1/6)
夜9時過ぎ。
今日の仕事がすべて終わった後。
俺はちとせを助手席に乗せて、青山にある撮影スタジオから車を出した。
「なあ、ちとせ……帰り道、少しドライブしてもいいか?」
大通りへ出るためにハンドルを切りながら、俺はちとせに問いかけた。
「龍?……うん、いいよ」
一瞬目を丸くしたちとせは、すぐに心得た様に頷く。
「最近忙しくて、まともに運転する時間なかったもんね。龍、ガマン出来なくなったんでしょ?」
からかう様に俺の顔を覗きこんでくるちとせの頭を手の平でポンポンと叩く。
「ちょっ……龍!」
もう、と口をとがらせるちとせに軽く笑うと。
俺は、自宅マンションとは逆の方向にウインカーを出した。
今日の龍は機嫌がいい。
正確には、ついさっきまでメンバー全員で受けていた雑誌の取材からだ。
ハンドルを握る指先で、軽くリズムをとる龍。
珍しく、鼻歌でも歌いだしそうなその横顔に目をやる。
(本当に、こういう所はちっちゃい子供みたい……)
普段は大人っぽくて、恋人としてもトロイメライのリーダーとしても頼りになる龍。
車窓を流れる街のネオンに視線を移して、私は取材の様子を思い返した。
取材場所に指定されたのは青山のスタジオ。
車の、しかもメカニック系の雑誌の取材のオファーがどうして私達に来たのか不思議だったけれど。
「ん〜、なんでも‘ドライブで聴きたいミュージシャン’っちゅうアンケートで一位になったらしいで?」
佐藤さんいわく。
最近は車好きな女性も増えたから、いろんな企画で盛り上げたいんやろ。
というコトらしい。
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