『カワイイ』なんて言わせない(2/6)
一番最初にスチール撮影を終えた私は、スタジオの壁際で取材相手の女性編集者と笑顔で話し込む龍に気付いた。
取材自体はもう終わっているみたいで、二人はひたすら車について話し続けている。
エンジンの性能だとか、シフトチェンジ、果てはタイヤのメーカーごとの特徴まで。
マニアの域にまで達しているその会話を聞きながら、私は安心すると同時に何故か軽い脱力感を覚えた。
(今回はあくまでミュージシャンとしての取材だったからだけど、龍が車やバイクを好きなのは有名だもんね……アレ?)
ふと気が付けば。
龍が運転する車はいつの間にか街中を抜けて、大きな川沿いにある倉庫街に差し掛かっていた。
(今日はいつもと違う道なんだ……)
龍が‘ちょっとドライブ’する時は混雑する街中は避けても、この川の近くまで来る事はまずない。
先月発売されたトロイメライのアルバムが流れる車内で、私は車窓から龍に視線を移した。
時折、倉庫街のまばらなライトに照らされる龍の横顔。
すっきり通った鼻筋に、あごから首にかけてのラインが妙に色っぽい。
いつも整髪料で固めている黒い髪が、本当はとても柔らかいのを知ってる。
真っすぐ前を見ている真剣な目は、私を見る時にはとても優しくなる。
龍の唇や逞しい腕は、私に触れる時ちょっとだけ意地悪になったりもする。
そんな事を無意識に数え上げていた私の視線の先で、突然龍が大きなため息をついて車を急停車させた。
「きゃっ!……龍?」
「……ちとせ」
驚いた私がどうしたの、と問い掛ける前に運転席から身を乗り出した龍にきつく抱きしめられた。
「…龍?」
「ちとせにそんな目で見つめられてたら、まともに運転なんか出来るワケないだろ」
首筋をかすめる熱い吐息にビクッと反応すると、龍が声を立てずに笑う気配がした。
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