Musician | ナノ


アンダンテ〜Andante〜(1/3)

今日は朝から、まるで梅雨が明けてしまったのかと思わせるくらいに眩しい太陽が顔を覗かせていた



トロイメライがいつも使っているスタジオの屋上でも、青く澄んだ空に向かって、気持ちいい初夏の風が吹き抜けている




(えっと瑠禾は‥‥‥あっ!)


今はシンと静まり返っている屋上をぐるりと見渡すと、ベンチの上に膝を抱えて丸くなっている瑠禾の姿があった





今日の練習が終わった後


荷物を置いたまま、いつの間にかスタジオからいなくなっていた瑠禾



皆には『ちとせちゃん、過保護すぎ』だとか『そんなに心配しなくても、じき戻ってくるだろ』とか言われたけど



(だって、それでも心配なんだもん……)



瑠禾の姿を見て『ラブラブだね』と櫂にからかわれた事まで思い出した私は、熱くなった頬を両手で包み込んだ



(も、もう……今はそれどころじゃないでしょ!)



どこまでも青い空を見上げて、何とかその熱をやり過ごしてから



私はパタパタとベンチに向かって駆け出した







すぐ目の前にそっと膝をついた私の気配に気づいて、瑠禾がゆっくり顔を上げる


「瑠禾」


「………ちとせ?」


小さな声で私の名前を呟いて、瑠禾はちょこんと首を傾げた


(あ……)


その動きに合わせて、彼のクセのある髪が風にふわふわと揺れたのがやけに印象的で


無意識のうちに髪に手を伸ばすと、瑠禾はくすぐったそうに目を細める



「悪戯っ子なちとせも可愛い」


瑠禾の手が、髪に触れる私の手の上に重ねられた


「る、瑠禾!?」


ビックリして手を引こうとしたけれど、瑠禾の手はそれを許してくれなくて


「ふふ、ダメだよ?」


「‥‥‥っ」


至近距離でまっすぐに見つめられて、心拍数が一気に跳ね上がる



「ちとせ、僕の事探しにきてくれたの?」


「う、うん」



その質問に、私は少しだけ冷静になる


(‥‥‥そういえば)




瑠禾にドキドキさせられて、大事な事をすっかり聞きそびれていたのを思い出した





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