アンダンテ〜Andante〜(2/3)
「ねえ、瑠禾‥‥今日はどうしてここに来たの? 何かあった?」
瑠禾は自分一人で抱え込んでしまう事も多いから
どんな些細な事でもいい
私だけはいつでも、瑠禾が必要とする時には彼の手をすぐに取って上げられる‥‥‥そんな存在でありたいの
「ちとせ?」
いつもみたいにごまかされたりしないよう、間近で黒い瞳を覗き込む
と、その瞳に何とも言えない、楽しそうな色が浮かんだ
「ちとせ」
瑠禾の手が私の肩に触れた‥‥と思った次の瞬間
「え?‥‥‥きゃっ!?」
そのまま引っ張り上げられて、気がつけば私は瑠禾の膝の上に横向きに座らされていた
「ちょっ、瑠禾!? ちょっと待って‥‥」
「ダーメ、待たない」
「そんなぁ‥‥」
もうこれ以上は無理だっていうくらい真っ赤になって、慌てて立ち上がろうとした私は、満面の笑顔を浮かべた瑠禾にギュッと力一杯抱きしめられた―――
『僕はちとせが隣にいてくれれば、それでいいから』
ひとしきり騒いだ後に瑠禾がくれた言葉
「やっぱりはぐらかされた」って思うけど
言いたい事も、聞きたい事もいっぱいあるけど
それでも
今、私に見せてくれるその笑顔は作り物じゃない
私だけに見せてくれる『本物』のあなただから
大丈夫、焦らなくてもいい
手を繋いで二人でゆっくり、歩いていこうよ
ねえ、瑠禾?
笑顔を交わしながら屋上から下りて行く私達を、ビル群の向こうに沈もうとする太陽だけが静かに見送っていた―――
―END―
⇒あとがき
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