キスより甘いひとときを(1/3)
とあるオフの日の昼下がり、俺とちとせが暮らすマンション。
昼食を簡単に済ませた後で、ちとせはキッチンで一人、イチゴをたっぷり使ったショートケーキを作り始めた。
「‥‥‥‥‥‥」
‥‥‥‥気に入らねぇ。
何が気に入らないって、今日は久しぶりに二人きりで過ごせる丸一日のオフだってのに。
ちとせは『瑠禾におねだりされて、瑠禾とそれに便乗した櫂達のために』ケーキ作りにいそしんでるんだぜ?
これは、別に俺が独占欲が強すぎるってワケじゃねえよな?
そう自分に言い聞かせて俺がため息をついた時、キッチンからちとせがトロイメライのメロディを口ずさんでいるのが聞こえてきた。
今はどうやら生クリームを泡立てているらしい。
俺は、座っていたリビングのソファから立ち上がってキッチンへ向かった。
「楽しそうだな、ちとせ」
「あ、雅楽!うん、ケーキ作るのは本当に久しぶりだからすごく楽しいよ」
「‥‥それだけか?」
「え?それだけって、何が‥‥あっ!」
慌てて自分の指先を見るちとせにつられて、俺もそこに目をやると。
ちとせがイチゴを取ろうとした指先に、生クリームが付いてしまっている。
「あ〜あ、やっちゃった」
「‥‥‥‥」
完全に無意識だった。
俺は、ふきんを取ろうとするちとせの手を取ってその指に付いた生クリームをペロッと舐めた。
「!?」
ちとせの体がビクッと震える。
ちとせが全身で俺を感じてくれているのが分かって、俺の顔にも満足の笑みが浮かぶ。
「甘い、な」
小さく呟くと、顔を真っ赤にしたちとせが慌てたように俺を見る。
「え、本当に!?‥クリームにお砂糖入れすぎちゃったかな?」
まったく、コイツはどこまで天然なんだ。
俺はちとせの肩を抱き寄せて、もう一方の手で半分に切られたイチゴで生クリームを掬うと、ちとせの口許に差し出した。
「味見、してみるか?」
「え、えぇっ!?」
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