身分も違えば立場も違う。
年だってうんと違うし、目線は私のずっと上。
でも好きなものは好きだからしょうがない。前はこの差を埋めようと色々努力していたけれどそれももう辞めた。
色々な駆け引きを考えてもむこうは一枚も二枚も上手だからだ。
わたしは正面からぶつかっていくしか方法がない。

ひとめぼれだったのだ。

飄々とした姿も、いつもお酒を嗜んで赤みがかった顔も、低くて渋いその声も全部私を虜にした。
あの人に近づきたくて努力して今の立場も手に入れた。私の能力じゃこれくらいが限界かもしれないけど、それでも近づけたからそれで良い。
距離が縮まればほんのりいつも甘い香りがすること、頭をなでてくれる手は大きいこと、なんだかんだいってもやっぱり一番頼りになることが分かった。

ますます好きになってしまった。

『私は京楽隊長がすきです!』って何回も言ってるけれど隊長は「可愛い子に好かれるってのは気分がいいね」と笑うだけ。子ども扱いされるばかり。
これで諦められるならばどんなに良いのだろう。ほんとに好き。子ども扱いされるのも好き。好きが溢れて仕方がない。


その日は珍しく定刻に仕事が片付き、翌日が非番なこともあって気持ちが大きくなっていた。
蒸し暑くてベタつく嫌な夏が終わりかけて夕方には日暮と鈴虫の鳴く良い季節になっていた。月もあと何日がすれば真ん丸と輝くそんな夜。
あいにく誰も捕まらなかったけれど一人でお酒を飲んでいた。
夜も更けると少し肌寒いけれどついつい飲みすぎてしまった夜には心地がよく感じた。


今日は隊長遅番だったかな。もう仕事終わったのかな?まだいるのかな。少しでも隊長を近くに感じたくて隊舎の方に来てみたけれど探す勇気はなくって屋根の上でもう一杯飲むことにした。
屋根の上に上がると月が近くて明るくて、それだけで酔いの回っている私を興奮させた。

「名無子ちゃーん、こんなところで一人酒かい?」
『わ、隊長!お仕事お疲れ様でした!』
「七緒ちゃんが終わるまで帰さないっていうからこんな時間になっちゃったよ。」
『それはいつもおサボりしてる隊長がわるいとおもいまーす!!』
「おお、言うねえ。名無子ちゃん1人で飲んでたのかい?」
『はい!!明日お休みなもので!』
「じゃあボクも1杯お付き合いしようかな。」

会いたいと思った人に会えたこと。それは私の気持ちをさらに大きくさせた。酔っぱらいの戯言だと思ってもらっても構わないけれど、わたしはやっぱりこの人のことが好きで好きで仕方なくて。その気持ちを抑えることが出来なかった。


『隊長は、私のこと好きですかー?』
「なんだい急に。名無子ちゃんは可愛いボクの部下だよ。」
『じゃあ好きって言ってください!』
「おやおや、ずいぶん飲んだんだね。名無子ちゃんこれくらいで辞めておきなよ。」
『私隊長に好きって言ってもらえたらそれだけで死ねます!!』
「可愛い部下に死なれたらボク困っちゃうよ。」

いつもだったら相手にここまで言われたら私だって引くけれど、心のブレーキは緩んでいた。お酒って怖い。

『一生子供扱いされてもいいんです。振り向いてもらえるとか思ってないんです。でも好きなんです。……1回でいいから……ね。』
「困った子だねえ、名無子ちゃんは。」
言葉との温度差があるひどく優しい声で隊長はそう言ってわたしを抱きしめてくれた。

「ボクは好きになったらしつこいんだから。」
私を抱きすくめる腕の力が強くなる。





「 」


(これが夢なのか現実なのか分からないけれど今はただ、今はただ。)
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