恋人が特命の先遣隊として現世に行った。
もともと彼はマメなほうではないのでメールはさっぱり返ってこないし、電話も現世にいってからしばらく経つのに1回しかしていない。
私だけがさみしいと思っているわけじゃないと、きっと彼もさみしいと思っているはずだと自分で自分を慰めてみたけれど
一緒に現世に向かった弓親さんから女の人のところに居候してることを聞いてとても複雑な気分になってしまった。
彼は見かけによらず誠実だから、きっと私が悲しむようなことはしないってわかっているけれど
もしかしたら逆はあるかもしれないじゃない?彼は女の人には弱いから。

深呼吸を3回してゆっくり通話ボタンを押した。
恋人になってから結構経つけれど未だに出てくれるかわからない電話をかける時は緊張するのだ。

プルルル、プルルル、プルルル、プル
4回目のコールの途中で彼が電話に出てくれた。
『もしもーし、名無子ちゃんですよー。』
努めて明るく電話の向こう側の彼に声をかける。
ああ、どんな顔をしているだろう。びっくりしたかな。喜んでくれていたら嬉しいな。

「おう、わかるわ」
『可愛い彼女にその言い草は失礼なんじゃないですかー?』
「そうかよ」
ぶっきらぼうな物言いでも、電話から伝わる彼の声から少なくとも本当に嫌がってるわけでもめんどくさいと思ってるわけでもないことが伺いしれた。
それだけでも満足。

『ちょっと冷たくないですかー?わたし電話したかった。一角さんと話したかったよ!!』
「ちゃんと出たじゃねーかよ!!」
『でも一角さんからは全然電話かけてくれない…』
「あー、悪かったよ」
『お変わりありませんかー?』
「おう」
こういうたわいのない話を隣で出来たらどんなに幸せだろうか。
彼はあまり私に仕事の話はしない。いつも誰かから聞くだけ。でも彼に変わりがないということは、彼がちゃんと生きているっていうことだからわたしはそれだけで充分。

『でも女の人のところに居候してるみたいじゃないですか』
「お前、それだれから!」
そして本題。
別に責めたいわけじゃなくて、ちょっとその話を出して焦る彼を感じたかっただけなんだ。

『弓親さんですよー』
「その、あれだな、なりゆきでだな」
『一角さんの口から聞きたかったです』
信用していないわけじゃなく、彼の口からそう聞きたかった。それだけなんだ。
きっと彼のことだから私に心配かけたくないとか多分そんなところなんだと思う。全部わかってるけどそれでもちゃんと彼の口から聞いて納得したかった。わたしはそこまで文句を言うような小さいたまの人間じゃない。(あ。人間ではないか。死神か。)
だからちょっぴり彼にいたずらをしてみたくなった。

「悪かったよ」
『そんな事ばっかりしてると私も浮気しちゃいますからねー』
「俺のは浮気じゃねえよ」
『一角さんがいなくて寂しいだろーって檜佐木さんから飲みに誘われました!!』
「おい!お前それ行くのかよ!!」
『一角さんがあんまり私のことほったらかすなら行っちゃいますよ?』
「おい、お前」
これは半分ホントで半分はウソ。
檜佐木さんから一角さんがいなくて寂しいでしょってからかわれたのはホントのこと。
飲みに誘われたのもホントのことだけど、みんなが帰ってきたら打ち上げしようなって誘われただけ。(きっと檜佐木さんは乱菊さんに会いたいんだと思う。)
あー、ぜったい本気で焦ってる。電話越しでバタバタしてる。それが面白くって、でもこれ以上長引かせて雰囲気が悪くなるのも嫌だからここでおふざけはおしまい。

『ふふふ、嘘ですよ。寂しいですけどみんなが帰ってきたらみんなで飲みに行きましょっていいました!』
「…名無子」
『だから、』
「ん?」
『だからちゃんと元気で帰ってきてね』
これがホントのホントに言いたかったこと。
闘いが好きな彼のことだ。今度の敵も強いんだと思う。一護くんと戦ったときのことを思い出すと今でも胸が痛むのだけれど彼は11番隊。
やめてっていっても闘うはずだ。だから傷だらけでもいい。ちゃんと生きて私のところに帰ってきて欲しい。

「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんだよ」
『…会いたいな』
「そうだな」
彼も私に会いたいって思ってたことがちゃんとわかればそれで満足。
今日はいい夜だ。

『帰ってきたら一番に会いに来てください』
「そのつもりだ」
『あとメールはちゃんと見たら返してください』
「……なるべくな」
『ふふ、じゃあ私明日早番だからそろそろ寝ますね』
「おう、あ、名無子」
『はいはいなんでしょう』





「好きだ、おやすみ」


「じゃあ」って言い逃げして電話を切ってしまうから言いそびれてしまった。
きっと顔を真っ赤にして携帯を握りしめてる彼を想像したら愛しくなって
私も大好きって書いたメールを送って布団に潜り込んだ。


(彼のそういう不器用なところが好き)
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