「下っぱがサボリとはエエ度胸しとるなァ」

そう言って頭にげんこつを落とす隊長もサボりでしょう、といつもなら言える言葉も今日は口から飛び出る元気はなかった。
怪我をしてしまった。先輩が。私をかばって。
左腕からたくさんの血を流して、それでも笑って「大丈夫?怪我はない?」って。
誰も私を責めなかった。それどころか心配すらしてくれた。
「大丈夫か?」「怖くなかったか?」「心配するな、コイツなら大丈夫だ」って。
他の隊のことはよくしらないけれど、この隊の人達は本当に優しい。
現にこうやって隊長ですら、私みたいな下っぱの下っぱにだって声をかけてくれるから。

昔の隊長のことはよく知らない。悪い人だった?ってことだけは知っている。
その頃のことを思い出して、桃副隊長が遠い目をすることも知っている。
だけどグチャグチャのめちゃめちゃになった瀞霊廷が元通りになっていく姿しか私は知らないから。
でもその中で奮闘する死神たちをみて、私も死神になりたいって思った。
それなのに不甲斐ない。

『……っ…ぐすっ、…ごめん…なさ……い。』
「なんや、昼間のアレ、気にしとんのか。」
『だって…っ、……うっ…』
「あんなん、気にせんでもエエとは言わんけど俺はお前が怪我して帰ったきたら、アイツらを叱る事になったんやで」
『……なん、で……っ』

「あのな、よーく聞いとけよ」


"五番隊はみんな仲間や。上のもんが下のもんを面倒みる。それは当たり前のことなんやで。
お前があのまんま攻撃受け取ったらそれこそ怪我どころではすまんかったやろ?
あれがベストな選択とは言えんけど、お前が死ぬよりはいい選択だったんや。
それにあれくらいでどうにかなるほどアイツは弱ないで。"

その言葉に私は顔を上げた。

『もっと、強くなります…』
「まあ、程々に頑張ったらエエよ」

そう言って平子隊長は私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「アイツら心配しとったで。名無子が落ち込んどる!居なくなったって。」
『……わ、どうしよ。わーわー。』
「まあ、サボりついでにもうちょっとここにおったらエエよ。」

"お前はお前のまんまでいいんやで。それでもうちょっと強くなりぃ"
そう言った平子隊長は芝の上に寝転ぶ。それにならって僭越ながらも私も隣に横になった。

目の前には抜けるような青空が広がっていて、これからもこの隊のために、この人のために頑張っていきたいと決意した…けど、いまはまぶたが重い。



泣きつかれて意識を飛ばす瞬間に、「誰も寝ろとは言ってへんけど…」という声が聞こえたけれどもう遅い。起きたら頑張る。頑張るのでおやすみなさい。


その後二人して寝ているところを隊士に発見されて二人揃って桃副隊長から叱られたことは言うまでもない。
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