たまには素直に



 バァンッと盛大な音を響かせながら開かれた扉。それを見ることすらせず、アサヒは手元のファイルのページを捲った。何の反応もないと知るや、つかつかと足音を鳴らして近付いてくることも彼には予測済みだった。

「遅かったね」

 ファイルに差した影にようやく顔を上げると、不機嫌の三文字を顔に書いた少女が仁王立ちしていた。まるで般若のようだという感想をすんでのところで飲み込む。

「お望み通り持ってきてやったわよ。ほら!」

 少女――カザハは、提げていた袋を逆さまにして、ドサドサと乱暴にその中身を机に広げた。

「とっっても重かったから星澤先輩じゃ持ってこられない筈ですよねえ」

 たっぷりの嫌味を込めてそう言うカザハに、アサヒは苦笑して肩をすくめた。その仕草がまたカザハの怒りに火をつける。

「そもそも、どうしてあたしがあんたの為に時間を削って探し物をしなくちゃならないのよ」

「資料室のことはきみ達が一番知り尽くしてるだろう? 適材適所、時間短縮。時間や人材は有効に使わないとね」

 そう返しながら、アサヒは目の前に広げられた資料を手に取ってざっと眺める。きちんと並べ直してカザハを見上げた。

「うん、完璧だ。カズキにも礼を言っておいてくれるかな」

「あら、どうして?」

「この殆どは彼が集めたんだろう?」

「…………」

 押し黙ったカザハが、ふいっとそっぽを向く。どうやら図星らしかった。
 そんなカザハの姿にくすりと笑って、アサヒは重ねた資料の背表紙を指でなぞった。頼んだ数よりも間違いなく多い。
 けれど、不要なものは一冊たりとてない。どれもが求めている内容と関連が深く、それを補うものだった。

「きみに頼んで正解だったよ。本当に完璧だ」

「お世辞は結構よ。あんたに言われても気色悪いだけだわ」

「心からの賛辞だったんだけどな」

「それこそ鳥肌が立つわ」

「そうか。まあそうだろうね」

 曖昧に笑って、アサヒは立ち上がった。それを見て、カザハはパッと顔を背けて一歩後退する。
 その様子に首を傾げたアサヒだが、すぐに理由を察して開きかけた口を閉じた。
 僅かな間落ちた沈黙。
 破ったのはカザハだった。

「用は済んだし失礼するわ」

 返事を待たずに踵を返す。扉をくぐる背中に向けてアサヒは声を張り上げた。

「優秀な後輩がいて助かったよ、本当にね」

 ピタリとカザハの足が止まる。髪を揺らして振り返ったその顔は、常と同じ自信に満ち溢れていた。口の端を持ち上げて笑う。

「気付くのが遅いわ、愚か者」


END

________
和泉様:Silver Snow

またもや和泉さんに書いて頂いてしまいました!
和泉さんたら本当にカザハマスターで…!
お互い一応は実力認め合ってるのにプライドを優先しちゃうアサカザ美味しいです^///^
素敵なお話ありがとうございました!







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