マワルソラ
風がそよぐ。透明な空気が穏やかに草原を揺らしていた。
見上げれば青空が、深い色の木陰に切り取られて流れていた。静かな時間。止まらない時間。
あいつの声はまだ聞こえない。私は一人だ。
けれど、そこにあるのは空虚ではなく充足だった。どんな時だって、心のそばには私を受け入れてくれる人たちの存在がある。やさしい温度は消えない。私は、それをとても愛しく思う。手放すときは来ないであろう。きっと。私はそれを望まない。
どこか欠けている実情に時折不安になるけれど、そんな妄想は蹴散らしてしまうのだ。私は私。掴める手のひらはいつもそこにある。大丈夫。だって私は強いから。この世界の美しさをありのまま受け入れて笑える限り、私は決して負けはしない。
やわらかな風が後押しする。
息を吐いた。
騒がしい足音に私は、ちいさく笑う。
「一分遅刻よ。愚か者」
こんな日々を、愛している。
終
参考元『マワルソラ/矢井田瞳』
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