オッサン…こんな日にまできっちり仕事入れやがって…
俺だってそりゃ、誕生日くらい彼女と一緒にデートの一つでも…と思ってる。
思ってるんだが、仕事が終わらないんだから仕方ねぇだろ。
「名前…さっきから何つう顔してんだよ」
「だって…龍也ずーっと仕事してるんだもん。ばかぁ。」
「馬鹿って…お前に言われたくねぇよ。」
そう、こいつ、名前は俺の彼女だ。名前は仕事が終わり、俺のマンションにケーキを持って来てくれていたが、何せ俺の仕事が終わらねぇ。
ムッス〜っと頬を膨らましてガキみたいに拗ねている所もちょっと可愛いと不謹慎にも感じたが、「馬鹿」はねぇだろ、「馬鹿」は。
パソコンに向かって経理の仕事をするべくエクセルに数字を打ち込んでいくと、背中から腕がまわされてギュっと抱きしめられた。
「龍也ぁ」
「何だよ、まとわり付いて…急に甘えモード入るなよ。」
あーなんだこいつ。やっぱ可愛い。
腹に回された白くて細い腕を優しく上から俺の手で覆った。
「お誕生日おめでとう。仕事をしてる龍也もかっこいいけど、無理しすぎて身体壊したりしたら私悲しい。アイドルとしていつまでもキラキラ輝いていて欲しいから…」
名前には敵わない。アイドルとして輝く…か。
いつでも俺の事を考えてくれる名前。今までアイドルよりも事務所の取締役として裏方に回ることが多かった俺は、そんな自分がアイドルとして必要とされているのか悩んだこともあった。
そんなモヤモヤから救ってくれたのも名前の笑顔と優しさと、厳しさだった。
「ばーか、俺はいつでもお前だけのアイドルだ。カッコ悪い所みせるかよ。」
「見せろばーか。龍也のかっこつけ!」
茶化したり、急に真面目になったり、コロコロと表情を変える忙しない奴だが、そんな所が俺にとっては丁度いい心地よさを生み出している。
けど、せっかくカッコつけたってのに茶化すんじゃねーよ、恥ずかしいだろ。
「さっきまで可愛いと思った俺が馬鹿だった。名前といると本当に馬鹿になっちまいそうだ。」
「なっちゃえなっちゃえー。」
そう言って、名前はあぐらをかいていた俺の膝上にチョコンと乗って胸に身体を預けて上目使いでニコリと笑った。
名前の両手が伸びてきて、首に絡ませると、そのまま髪の毛を掻き上げるようにして顔を近づけた。
短髪で少し隠れている耳元が露わになって、名前の吐息が伝わった。
「おい、コラっ…」
「龍也と一緒になれるなら、何だっていいよ。」
熱を持った吐息と、優しい声が俺の耳に響いた。
お前がいてくれたから、俺が生まれた意味があったのかもしれない。
thank you…俺の最愛の人。