「ねー、トキヤだったら『ホテル行こう?』なんてあからさまに誘わないでしょ?」
「…何の話ですか。」
その場だけの愛…それは愛?
けれど、私がやっと手に入れた名前は、それを愛だと言いきった上で私を求めた。それを承知で私は抱いた。
気怠そうにシーツに丸まったまま、名前は背を向けている私の背中を綺麗な指でスーッとなぞった。
「だーかーらー、音也が「ホテル行こう」ってダイレクトアタックしてきたの。なーんかムードないよね。」
「…それで、行ったのですか?」
「へ?うん、行ったよ〜?暇だったし。音也の一生懸命な感じって何か可愛いじゃん?」
貴女の言葉の一つ一つがダイレクトアタックして、さらにクリティカルヒットな私の心はテレビのスノーノイズの様にざわめき立っていた。
名前には特定の相手…恋人という存在はいない。作らないのだと言っていた。けれど、私と繋がってからは他の男との噂は聞かず私自身、自惚れていたのかもしれない。
「では、私はもう用済みですかね。」
自虐と皮肉を込めて…けれど表情にそれを出すまいとやっとの思いで吐き捨てた言葉。
手放すまいと決めていた名前に自ら終止符を打つよう仕向けると、心臓のあたりがいたくてたまらなかった。
「何言ってるの?トキヤはトキヤじゃん。セックスの相性、一番よくって好きだよ?」
「…」
あぁ、どうして貴女は私を解放してくれなのでしょう。
『好き』の意味は愛ではないのに、沈みきった暗い世界から抜け出せたようにホッとする自分が辛かった。
シーツを彼女から奪うと露わになった白い肌に吸い込まれるように、また顔を埋めて貪るのだった。
求めても求めても、そこは灰色世界。